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鶏卵と息子改兄改何かと私と

農家直送の鶏卵に羽が生えているのを息子が見つけた。私は微塵も興味がないが子供に媚を売るため興奮した振りをしながら手をパタパタして言った。「これ、パタモンの卵!パタモンの卵!パタモンの卵!」しかし、息子はピンときていない様子。ため息を吐きつつ私は言う。「令和生まれにはわからんかもしれんがな、これはポケモンの卵だ、息子よ。ポケモンはもち知ってるよな。舶来のゲームでぎゃおっぴみたいなパズルゲー。パタモンはポケモンの一種と考えてほしい。ブラックマジシャンに進化するやつ。それでパタモンの卵には羽が生えているんだけどこれがそうだよ」すると息子は直前まで鼻をほじっていた指にふぅーっと息を吹きかけ「それは違う」と。「違うもんか、こちとら平成を生き抜いてきてるんだ、ポケモンとジターリングは平成の三種の神器と言われていて──」と私は言い返す。「そうじゃなくて。息子?僕が?僕は君の兄だよ。混乱するのも分からなくはないけど」と息子、ではなくて……。「もう、いやいやいや!」訳が分からなくなって左手をガジガジガジとかじっていると兄が優しく言う。「ほら、君は相続税対策で法律上はお婆ちゃんの息子になっただろ? 僕はそのお婆ちゃんの息子で君のお父さんの弟の子だから……あれっ?」ひとしきりブツブツ言いながら息子改兄改何かはもう一度鼻に指を突っ込んだ。次に指が出てくる時にはきっと何も付いていないだろう。だってほら、さっき大きいの取れてたから。この人から興味が逸れてパタモンの卵に目をやると羽が取れて飛んでいくところだった。なんだ、結局は特別じゃないんじゃないか。生まれる時に母親の羽がたまたま付いただけのただの汚れ卵だったわけだ。悲しくなってくる。泣きそうになるのを我慢して「うーうー」と唸っていると奴が言う。「あっ、僕は君のいとこだよ、たぶん間違いない。それにそういえばオナ中だったじゃん。だから同世代だよ、僕も平成」バカだなと思う。さっきまで法律上の関係性がどうとか言っていたのにね。でも、別にどうでもいいんだ。いとこだろうと他人だろうと。推定いとこは鼻の穴から指を引き抜く。私は忘れていたんだ。鼻の穴は二つあるってことに。鼻毛かな、あれは。一本の毛がその塊から飛び立って件の卵に降り立った。ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。まるで卵に突き刺さるのが当たり前とでも言うように。前世や前前前前世から決まっていたとでも言うように堂々と。一連を見ていた私たちは堪らず吹き出す。「これ、おやじっちの卵だよ」今度は本心からおやじ仕草をしてみた。そいつを横目に見ると笑い転げていて私の方は見ていなかった。まあ彼が誰であろうと次の当主は私で祖母のビジネスも私が引き継ぐことに変わりはないんだけどね。

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爪毛川太
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!