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産む仔【小説】1431字

押し付けられた猫が仔を産む。細猫だったが腹だけパンパンに膨らみ餓鬼のよう。産まれるのは、はたして猫か、あやかしか。

部屋の隅に買っただけで使わなかった一人用テントを広げる。中に段ボールを敷き準備してやる。

一瞬痙攣したかと思うとズルっと濡れた布切れが猫の尻にぶら下がった。猫のやつは少しうろうろしていたが、再び力み布切れが生まれ落つ。この世界にようこそ。

布切れには赤黒い内臓がぶら下がっている。ギョっとしたがこれが胎盤というものなのだろう。これはどうしたらいいんだろう、とググっていたら親猫が喰った。へその緒を切るのに苦労していたのでハサミでちょん切ってやった。ちょっと血が出る。グロいのは嫌だ。

親猫は白だが子はだいだいと白のミックス。白色が優性遺伝子で親が白なら子は白が多いと聞いたのだがね。

まだ親猫はまだ産みたりないようだ。

二匹目は白。色は違えど濡れ雑巾。三匹目もすぐ。次はオレンジ一色。どの布も胎盤をぶら下げている。そして親猫が喰う。グロいったらありゃしない。しかし、まあ、いらっしゃいませ、この素晴らしい世界に。

腹も小さくなってきたし終わったのだろうと外出する。ペットシートを買うためだ。段ボールでは少々不安なのでね。

一番安い物を買って戻る。なんとまた出産をしていた。この少子化の時代にあっても畜生共はお構いなしですか。

しかし、ちょっと引っかかっているようだ。しょうがないから腹をさすってやる。出た白い布。あまり元気がない。後味の悪い思いはさせないでくれよ。胎盤が邪魔なのか? 血管をひもで結んで間を切ってやる。血が出る。グロイ。しかし、鳴き声をあげて動くようになったのでこれでよかったはず。

よく見るともう一匹いた。橙白。つまりこの痩せ猫は五匹も産んだのだ。ウェルカムトゥザブーティフルワールド。

とりあえず親猫に任せていいだろう。少しして見ると濡れ布はちゃんと生き物になっていた。親猫が舐めて表面のドロドロを取り去ったらしい。ちゃんと毛があり顔があり爪がある。

まだ目も開かないのに乳を吸う子猫共。生まれた順にイチ、ニ、サン、シ、ゴと呼ぶことにする。

イチが言う。「生んでくれなんて誰が言ったよ」一番上はメンヘラのようだ。

ニが言う。「俺、馬鹿だし、まだガキだからよくわからねぇんだけどよ、とりあえず眠い」おい、そこは馬鹿な振りして核心をついた風のセリフを言うんじゃないのかよ。

サンが言う。「ワシはな、父の顔は知らないが乳の味は知っているのじゃよ」おやおや、キャラが立っていることで。赤ん坊のうちからジジイキャラですか? もしくは西の方のご出身ですか? ここ東京なんですけどね。

シが言う。「あたくしは猫であって猫でないのよ。そのうちあなたみたいな人間になるんだわ」おや、こちらも漫画でしか見ない女の子口調。もしくは古き良き時代の淑女さんですか? 令和生まれでしょうに。無理に口調でキャラを立てようとすんな。同じような見た目をしてんのは猫も人も同じだから。

ゴが言う。「兄弟がいろいろとすみません。まだ生まれたばかりでハイになってるもんで勘弁してやってください。いずれ黒歴史になると思うんで」

ゴが一番話が通じるかな。お前はうちに置いてやってもいいよ。

ゴは続ける。「しかし、猫に声を当てて意味不明なことを喋らせるの、やめてもらってもいいですかぁ? テレビで見るこういうの、あなた嫌ってたじゃないですか。脳内だったら何やってもいいと思ってます?」

前ゴン撤回。お前は猫ナベにして喰ってやる!


2021年11月


見出し画像に写真をお借りしました。


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爪毛川太
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!