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夜更けの夢見鳥【掌編】(669文字)
「20万借金があるヤツと、2億借金があるヤツ、どっちと友だちになりたい?」
うんこ座りしたユウトが聞いてくる。同じくうんこ座りしながら俺は考えたフリをする。
「そら、借金なんて少ない方がいいべ。20万」
深夜のコンビニ前ででっかい焼き鳥を頬張りながらユウトはご満悦な笑顔を見せる。
「ばっかだねぇ~レンは。億の借金なんて普通はできんのよ、だいたいは企業融資とかそんなん。2億借金があってもそれ以上に資産があるなんてザラよ。だ・か・ら、2億借金があるヤツと友だちになるべき」
いつもユウトはこうやってどこからか仕入れた、にわか知識を披露したがる。所詮は付け焼刃なのでこれ以上突っ込んでも何も得ることはできない。ユウトの機嫌が悪くなるだけ。
それに俺はこの話題には微塵も興味がなかったのでそれ以上追求せず、3分の1ほど残した甘ったるい缶コーヒーにセブンスターをぶち込んだ。
「じゃあさ、虫殺したことあるヤツと、人殺したことあるヤツ、どっちと友だちになりたい?」
「なんじゃそら(笑)」
その無意味な問いに俺だけではなく質問してきたユウト自身も吹き出した。案の定、答えはない様子だった。
口の端から焼き鳥だったモノをこぼしながらユウトは笑う。笑いながら地を這う桑茶色の蛾を串で突き刺した。
身体を巨大な棒で貫かれる最期にも関わらず、大した動きも見せず静かに息絶えていく。
リアクションがないのはユウトも同じで、ゼロコンマイチ秒後には蛾を殺したことも、蛾の存在さえも頭にはないように見える。
余韻で破顔したままのユウトに見つめられて、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
***
2020年10月に書いたものです。
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