つくたま2024年11月総会企画 『北本ビタミン B』上映&トーク
つくたまでは、年度ごとの通常総会にあわせて講演会や情報交換会などのイベントを行っています。
2024年11月17日に開催した総会企画についてレポートします。
概要
2024年11月17日に開催した総会企画では、2024年3月に東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科を卒業された屋宜初音さんが、修士論文執筆と合わせて制作したドキュメンタリー映画『北本ビタミン B』を鑑賞し制作者を交えて意見交換をしました。
当日の参加者はつくたま会員16名、一般8名、屋宜さんを含め25名でした。
ドキュメンタリー映画『北本ビタミン B』について
埼玉県北本市で開催されていたアートプロジェクト「北本ビタミン」の10年後を追った、72分のドキュメンタリー映画です。
この映画の対象である「北本ビタミン」は2008年~2013年にかけて埼玉県北本市で開催されたプロジェクトです。今はプロジェクトを運営していたほとんどの人が北本を離れ、活動もありません。
『北本ビタミン B』は「北本ビタミン」の関係者に話を聞き、当時の資料を見つめながら「北本ビタミン」がどんなプロジェクトだったのか、どんな人が関わって何を考えていたのか、アートプロジェクトが終わることとは一体何が終わることなのか考察を試みています。
ちなみに、インターネットで「北本ビタミン」と検索すると、現在でも当時のアートプロジェクトの痕跡をたどる情報をみることができます。
屋宜さんは修士論文のなかで、論文執筆に加えてドキュメンタリー映画を制作するに至った理由を、以下の様に述べています。
修士論文 序章より〜
「非当事者が経験していないアートプロジェクトに接近するには、言葉だけでは限界がある。本研究では言葉だけではとらえきれない<北本ビタミン>の様相を掴むためにドキュメンタリー映画『北本ビタミン B』の制作を行った。」
「ドキュメンタリー映画という手法を選んだのにはいくつかの理由がある。まずアートの専門家でない、プロジェクトの関係者や参加していた地域の人にも親しみやすい記録方法であること、次に文字だけでは残せない当時の空気感や、関係者たちが記憶を手繰り寄せる雰囲気を残すためである。またドキュメンタリー映画制作という手法は、地域からの反対を受けた<北本ビタミン>において、アートの側、地域の側その双方の間を行き来しながら制作することができる。特に当事者でない私が制作することで、より多面的な語りを引き受けられると考えた。そのためアーティストやアートマネージャーだけでなく、当時の市役所の担当者やボランティアとして参加していた市民、拠点の近隣住民、プロジェクトに巻き込まれた若者たちなど幅広い人々を撮影対象とした。」
なぜ、つくたまの総会企画で『北本ビタミン B』をとりあげたのか
つくたまは創立以来、まちづくりへの市民参加の促進をキーワードに様々な活動に取り組んでいます。
話し合いを通じてまちづくりのあり方を探るワークショップを実施したり、社会実験的手法による「まちづくりやまちづかい」を試みるなど、まちの中で人を動かし出会いを仕掛け、場の新たな可能性や価値を見出すことを目指しています。
他方、近年は空き家活用や商店街の活性化などのねらいをもった、まちづくりと親和性の高いアートプロジェクトが全国的に数多く仕掛けられ話題となる事例が見られます。さいたま市でも2016年から国際芸術祭が開催されるようになり、アートプロジェクト的な性格を帯びたイベントが数多く実施されるようになりました。
今回は「アートプロジェクトとまちづくり」の関係をとらえ直すきっかけとして、北本市で実施されたアートプロジェクトのその後を丁寧に取材し修士論文とドキュメンタリー映画にまとめた屋宜さんをお招きして、映画鑑賞とともに意見交換の場を設けることにしました。
意見交換の場で話されたこと
意見交換の場では、『北本ビタミン B』がとても優れたドキュメンタリー映画で面白かった、ということの上に、当時の北本市の市政のあり方や、「北本ビタミン」や「北本らしい“顔”の駅前プロジェクト」といったまちづくりに関わる公共事業がどのような意味をもっていたのか、どのような影響を地域に与えたのかということに触れる意見が多く交わされました。
また、「アートプロジェクト」という言葉が、「アート=必ずしも目標や結果を予め設定しない行為」と、「プロジェクト=目標と結果への評価ありきの行為」という、矛盾をはらんだ概念が合わさった言葉であるということに着目し、リスクを避け手堅く結果を求める都市工学的なまちづくりと比較しつつ、想定外のことを孕むアートプロジェクトがまちづくりにもたらす効果や影響(時に波紋)についても論点となりました。
最終的には活動停止に追い込まれた「北本ビタミン」というアートプロジェクトですが、現在のまちづくり活動や地域の担い手を生み出す端緒となった面もある、という意見が出されました。
『北本ビタミン B』について屋宜さんは、一般公開や映画賞への応募などは考えていないけれども、屋宜さん自身が参加する形での上映会や意見交換会は今後も続けていきたいとのこと。
ご興味のある方は、つくたままでご連絡いただければ屋宜さんにお繋ぎするのでご相談ください。
レポート文責:三浦匡史