25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ④
-前回までのファンタジィ-
無職の橋本は突然『リトルマーメイド』をレンタルしたくなった。
なんとか橋本は『リトルマーメイド』をレンタルすることに成功したが、秘密組織マーメイドラグーンにコハダの握りに改造されてしまうという恐怖でたんぽぽに話しかけてしまった。
-過去のファンタジィ-
25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ①
25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ②
25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ③
橋本がバカになり、たんぽぽに語りかけてから一夜が明けた。
秘密組織マーメイドラグーンは千葉県浦安市にある東京ディズニーシーの中に存在する。
インターネットでポチポチしたらHPが見つかった。
HPを見て、橋本は困惑した。
マーメイドラグーンは神秘的でありながら、その眩さは誰に対しても開かれているようであり、何よりめっちゃ楽しそうだった。
ああ駄目だ、駄目だ!
惑わされてはいけない。
これはマーメイドラグーンの妖術だ。
キツネとかタヌキが橋本に幻想を見せている。
これは全部、タヌキのキンタマだ。
真実を見ろ。
タヌキのキンタマを見るな。
ここには何があるんだ。
すごい。
これ本当に全部キンタマかよ…。
アリエルのお気に入りの場所を忠実に再現しているアスレチックゾーン。
それがアリエルのプレイグラウンド。
子供たちがこんなにも楽しそうにしているアスレチック型のキンタマを見たことがない。
「仲間にいーれーて。」
はしゃいでいた子供たち。
一瞬のうちに笑顔は消え、緊張感が漂う。
それでも何事もなかったように遊び続けようとする。
動きがぎこちない。
楽しい時間は戻ってこない。
なにもかもが変わってしまった。
「仲間にいーれーて。」
25歳無職は悪びれることなく元気いっぱい話しかける。
子供たち、未知との遭遇。
時は止まった。
陽気なミュージックだけが流れ続ける。
橋本、子供、ミュージック。
橋本、子供、ミュージック。
橋本、子供、ミュージック。
子供たちは立ち去る。
残されたのは橋本とミュージック、そしてアスレチック型キンタマ。
橋本は孤独から逃れ、この場所にたどり着く。
ここはスカットルのスクーター。
ヤドカリの背中に乗ってぐるぐると回る。
真ん中ではカモメのスカットルが回っているみんなを望遠鏡で見ている。
「なに見てんだよ。」
スカットルは回ってるみんなを望遠鏡で見ている。
「みんな懸命に回ってんだよ。見んなよ。」
スカットルは回ってるみんなを望遠鏡で見ている。
「なんじゃぁああ!アンダーザシーじゃコラぁあ!!」
憤怒と叫び。
スカットルに掴みかかろうとする橋本。
だが安全バーが体を押さえつけている。
安全なんかどうでもいい。
自由な回転が…!
みんなの回る権利が侵されようとしているんだ。
回れ!
散らばれ!
集まれ!
そして再びの回転!
大きなうねりを!
革命を!
Revolution!
騒ぎを聞きつけたスーツの大人たちが橋本を取り囲んだ。
「なんじゃぁああ!アンダーザシーじゃコラぁあ!!」
ひるんだ隙に橋本は駆けぬける。
無職よ、風になれ。
ここはリトルマーメイドの世界観はそのままに、オリジナルアレンジを加えたミュージカルショーを観ることができる。
子供たちは濁りなき眼を輝かせ、大人たちも浮世の汚れを脱ぎ捨てる。
海底に届くわずかな光はゆらめき、漂い、空間を満たす。
そこに散らばる星屑のような観客たちの頭上を人魚のアリエルは縦横無尽に泳ぎ回る。
感情をからだいっぱい表現するアリエル。
その横で、からだいっぱい無職を表現する橋本。
スイ〜スイ〜スイ〜クルクルクル。
軽やかに舞い観客たちを魅了する橋本。
「一緒に泳ごうよ!」
ある子供たちは小粋に踊り出し、またある子供たちは笑顔で天を仰いだ。
すでに橋本と子供たちは友達だ!
大人たちも疼きだす。
表面を撫で回す生活。
「しなければいけない」という脅迫観念。
他人からのまなざし。
その全てからの解放。
みんな回れ。
もっと回転を!
Revolutionだ!
ここで流れるのは当然『Under the Sea』。
陽気なミュージックが会場を包み込み、無職がライトアップ。
くった!
このとき橋本が完全にアリエルをくったのだ!
ようこそ。
ここは「無職のシアター」。
お母さんがメッセージを添えて温かいココアを持ってきた。
いつもありがとう。
温かいココアには温かいメッセージかな?
「働きなさい。」
お母さん、どうやらマーメイドラグーンという所は非常に良さそうな場所だよ。
安心してレンタルした『リトルマーメイド』を楽しめそうだ。
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