25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ③
-前回までのファンタジィ-
無職の橋本は突然『リトルマーメイド』をレンタルしたくなった。
ひまわりの乳輪のおじさんの登場や秘密組織マーメイドラグーンの存在におびえながらも橋本は『リトルマーメイド』をレンタルすることに成功した。
しかしマーメイドラグーンにコハダの握りに改造されてしまう恐怖は以前消えないままであった。
-過去のファンタジィ-
25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ①
25歳無職がリトルマーメイドをレンタルするということ②
頭の中で流れ続けている『Under the Sea』。
いま、この瞬間でさえ流れている。
それと向き合うためにレンタルした『リトルマーメイド』。
橋本の中のマーメイドな部分を満たせばこのミュージックは鳴り止むはずだ。
その結果、橋本がリトルマーメイドになってもいいとさえ思っていた。
だが世界はそれを許さない。
「リトルマーメイドになるょ☆」
どこの馬の骨か分からないような25歳の男が突然そんなことを言い出したら、世界は駆け足で崩壊してしまう。
もちろん橋本はリトルマーメイドになるつもりはない。
あのミュージックを止めたいだけなんだ。
だが秘密組織マーメイドラグーンは『リトルマーメイド』を愛する世界中の子供たちの笑顔を守る存在。
危険分子の芽はすぐさま摘み取らねばならない。
怪しいやつはみんな、新鮮なコハダの握りに改造されてかっぱ寿司行き。
おそらく奴らはすでに動き出している。
時間の問題なんだ、橋本がコハダの握りになってしまうのは。
このおぞましい事実をどうにかしない限り『リトルマーメイド』に集中なんてできない。
アリエルに共感したり、ミュージックに合わせて小粋に踊ったりもできないよ。
こんな時アリエルだったらどうする。
陸地を夢見る人魚の少女アリエルだったらどうするんだよ、橋本。
自分の夢を実現するためにリスクを冒してでも行動するだろ。
お前は本当に『リトルマーメイド』をみる気があるのか?
「覚悟」はあるのか?
コハダの握りになってもいいという「覚悟」。
コハダの握りになってもいいと10回言ってみろ!
「コハダの握りになってもいい。」
「コハダの握りになってもいい。」
(あと8回も?)
「コハダの握りになってもいい。」
(もうコハダでいいや。)
「コハダ。」
「コハダ。」
(もういいや。)
「コ。」
「コ。」
「コ。」
「ユ。」
「ユ。」
冴え渡る感覚。
世界と一つになる心地よさ。
すべてを受け入れる大海。
溶け出していた微粒子がつながる。
意識が湧き出る。
感情の発露。
言葉が生まれる。
橋本は心穏やかになり、ある答えにたどりついた。
コハダの握りになるのは絶対にイヤっ。
橋本よ、何をそんなに恐れている。
恐怖の正体を知れ。
無知と向き合い、知識と対話するのだ。
そういうことか…!
強いちからに突き動かされる橋本。
震える魂。
駆け抜ける、無職。
誰もいない公園の芝生に座り込む。
「すみませーん。秘密組織マーメイドラグーンって知ってますかぁ?」
「…」
「マーメイドラグーンってどこにありますかぁ?」
「…」
風が吹く。
草も揺れ、花も揺れ、橋本も揺れた。
「ああ!待ってよたんぽぽさん…!たんぽぽさーーん!」
橋本はバカになり、たんぽぽと対話していた。
たんぽぽがマーメイドラグーンについて知っていると思ってしまった。
今日も世界は青い。
明日、マーメイドラグーンをインターネットで調べてみよう。