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「サステナビリティ(SDGs)」のビジネス好機

自分が創設した会社(「ダイパーズ・ドット・コム」のブランド名で知られる「クイッツィ」という会社)をアマゾンに買収された挙句潰され、自らも数年アマゾンで働いたけど(被買収企業の役員を買収後数年はリテインするというよくある契約だ)そののち「打倒アマゾン」を掲げてマーク・ローリーがオンライン・マーケットプレイス「ジェット・ドット・コム」を立ち上げたときには、まるで復讐劇のようだなとビジネスのロマンを感じたものだった。

そののちさらにジェット・ドット・コムはかのウォルマートに買収され、マークローリーはウォルマートのEコマース部門の長としてアマゾンへの復讐を胸に新たなスタートを切るのだが、そうして彼が(というかウォルマートが)巨額なEコマース投資をして、「安かろう悪かろう」の古臭いイメージを打ち崩してアマゾンをぐんぐん追い上げるさまにも、ビジネスの面白さを感じた。

さて、今までのはマーク・ローリーの話だが、マーク・ローリーとともにジェット・ドット・コムを立ち上げたネイト・ファウストという人が、「オリーブ」というまた新しい趣向のマーケットプレイスを立ち上げたらしい。

ネイト・ファウストはダイパーズ・ドット・コム時代からのマーク・ローリーの同僚で、ジェット・ドット・コムの買収後マーク・ローリーとともにウォルマートに入社し、ウォルマートが一時期展開した高所得者向けのパーソナル・ショッピング・サービス「ジェットブラック」のヘッドを務めたりしたという。

(ちなみに補足までに言っておくと、マーク・ローリーはつい先日、ウォルマートからの退職の意図を発表している。マーク・ローリーは、ミレニアル(1980年から96年ごろまでに生まれた層)やZ世代(1997年以降に生まれた層)などの若者層に人気でブランド・バリューが高い数多くのネット企業を買収し、それら複数のブランドをウォルマートがホールディング会社のように傘下において運営していく、という戦略を切り盛りしてきたが、2019年ごろからその戦略が見直され、「ウォルマート」という本ブランドに一本化してリソースを投入していくというふうに大きく方向転換したことからお役御免になった感がある。まあ、「ひとつの時代の終わり」というわけだ。)

ネイト・ファウストが新しく設立した会社は「オリーブ」という。今はやりの「サステナビリティ」、日本でも話題になっている「SDGs」に着目し、新しいひねりを加えたEコマース・ビジネスだ。

ネット通販のヘヴィユーザーである僕自身も常日頃から思っていたのだが、今日のネット通販の問題点のひとつは、個人宅(や事業所)への頻繁な配達がカーボン・フットプリント(CO2排出量)の激増につながっているのではないかということと、箱や梱包材から出る「ごみ」の問題だ。

ネイト・ファウストは「オリーブ」をもってしてこの問題に一石を投じようと考えた。オリーブは米国時間の本日(2021年2月17日)にローンチされたばかりのネット・マーケットプレイスだが、現在、ざっと見ただけでも130社を超えるリテーラー(某ニュースサイトには「数百社」とあるが、僕が自らユーザー登録して目視で数えたところによると、130社とちょっとだった。地域的なものもあるかもしれない。)が加盟店として登録している。ユーザー(生活者)は、オリーブのサイトを通してこれらの店舗(ブランド)からオーダーすると、オリーブがオーダーをひとまとめにして、一週間に一度、再利用可能の特製ボックスで配達してくれるという仕組みである。

つまり、「一週間に一度」という具合に頻度を限って宅配することでカーボン・フットプリントの減少にもつながるし、(2017年にウォルマートが行った調査によれば、二つのアイテムを二回に分けて宅配せずに一回にまとめて宅配することで、カーボン・フットプリントを35%減らすことができるという。)また、再利用可能なボックスをつかうことで、ムダな「ごみ」を出さずにすむ。

僕のうちは僕だけではなく、24歳の子供も一緒に暮らしているので、ふたりが利用するネット通販を合わせると、一週間に少なくとも二回は、段ボール箱をばらかしてごみ捨て場に持っていって・・・ということを繰り返している。これだけでもかなりの手間だ。特製の宅配ボックスを利用したオリーブのサービスは、「ゴミを出さないというだけではなく、生活者の手間を省くという『コンビニエンス』志向の配慮でもある」とネイト・ファウストは語っている。

加盟ブランドは見た限りアパレルやファッションが中心だ。そこで疑問として湧きおこってくるのは、「果たしてアパレルやファッションを『一週間に一度』宅配してもらうニーズがある人がどのくらいいるだろうか?」ということだ。僕自身を例にとっても、毎週片付けているボックスの数々は「Amazon」のボックス、そして、最近ひいきにしているネットのアジアン・グローサー「Weee」の箱だ。以前は、訳あり生鮮食品のネット・スーパー「Imperfect Foods」のボックスも毎週片付けていた。そこに、ネットのホールセールクラブである「Boxed」のボックスや、ペット用品のネット・ショップ「Chewy」のボックスがちらほら混じる。

ようは、「食品系」や「日用品系」の買い物ならわかるが、「アパレルやファッション」で週に一度の宅配、というのはちょっとないんじゃないかなということだ。まあ、これから食品系や日用品系のお店も増やすのだろうし、人によっては、「毎週ショッピング・モールに買い物に行く」というライフスタイルの人もいるわけだから、上記はあくまで僕個人の主観的な感覚にすぎない。

マーク・ローリーとネイト・ファウストが立ち上げたジェット・ドット・コムや、それ以前の「クイッツィ」は、「ネット通販に対応したフルフィルメント・システム」のイノベーターとして知られている。クイッツィの時代に、たしか23個だったか、箱の形やサイズを使いわけて梱包するシステム(コスト効率よいフルフィルメントができる)、そしてジェット・ドット・コムの時代には、「在庫をどこから引き当てるか(フルフィルメント・センターのロケーション)」や、「ショッパーが一度にまとめての配達を望んでいるか、あるいはバラバラでもいいので一刻も早く手元に届くことを望んでいるか」などの要件によってユーザーが支払う最終価格が変動するシステムはまさに画期的だった。だから、個人的にはオリーブのフルフィルメント・システムに大いに期待しているが、オリーブの強みのひとつは、「自らは在庫をもたない」ことにある。

「オリーブ」のモデルの場合、在庫を持っているのは各加盟ブランド自身で、オーダーが入ると、これらのブランドがあたかも個人宅に宅配するように梱包をして、それをオリーブが運営する「コンソリデーション(統合)・センター」に発送する。複数のブランドから納品された商品をひとつに取りまとめて、オリーブが個人宅に「週に一度」宅配するという仕組みである。

(コンソリデーション・センターは現在のところ全米国内に二軒で、カリフォルニアとニュージャージーに一軒ずつ存在する。東と西に一軒ずつ、という、全米を均等にカバーするためのクラシックなフォーメーションといえる。ニュージャージーに拠点があるのは、クイッツィもジェット・ドット・コムも、そのフルフィルメント・センターをニュージャージーに構えていたから、という単純な理由もあるかもしれない。)

個人宅には週一度の宅配でも、これらのブランドからの納品を受ける、つまり、「各ブランドのフルフィルメント・センター」から「オリーブのコンソリデーション・センター」に輸送するためのカーボン・フットプリントが生じるのでは?という疑問もわくが、それにはここでは深く触れず、問題提起するだけにしておこう。

また、ユーザー登録時に自分の住所(宅配先)をインプットすると「あなたの宅配日は〇〇」と出てくる。僕の場合は「土曜日」だったのだが、自分の住所により自動的に指定されてしまうというのも、ちょっと不便なのではないかと気になった。

いずれにせよ、今後は、「サステナビリティ」や「SDGs」に着目したビジネス好機がどんどん広がっていくと思う。それも、「モノ」自体が「サステナブル」であるというだけではなく、「買い方/売り方」のサステナビリティに配慮した新進気鋭のビジネスの誕生に個人的には大いに期待している。


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