ペット用品と「コミュニティ/ソーシャル」の関係

今朝(米国時間2月11日)、ビジネス・ニュース・サイトを見ていて、「あれ?」と思ったニュースがあった。

P2Pのオンライン・マーケットプレイスとして大人気のポッシュマークが、ペット・カテゴリーに参入するというニュースだ。

「P2Pオンライン・マーケットプレイス」というのをもう少しかみ砕いていうと、僕らのような一般生活者で、「売りたい」ものを持っている人と、「買いたい」人をつなげてくれるサイトだ。主に、「ファッション・アイテム」に焦点をあてて成長してきた。僕もつい一年くらい前まではポッシュマークにはまっていた。

一応基本情報を書いておくと、設立は2011年、本社カリフォルニア州レッドウッド・シティ(シリコンバレーの北端だ)。今年の1月に株式上場を果たし、現在の時価総額は55.7億ドル(5,850億円)。年商は約2億ドル(210億円/2019年)。通過額は40億ドル(4,200億円)である。累積ユーザー数は7,000万人である(つまり、アクティブ・ユーザー数はもっと少ないと考えられる)。

(ここで注意してもらいたいのは、マーケットプレイスの場合、売上と通過額が大きく異なるということだ。マーケットプレイスの運営者は「取引の場」を提供することにより、コミッションやその他のフィーを収入源としている。ここで「通過額」というのは、そのプラットフォーム上で行われた取引額を指す。英語ではGMV(Gross Merchandise Volume)などと呼ばれる。)

ポッシュマークで取引されるものは基本的に中古品だけれども、近年の「サステナビリティ」への関心の高まりが追い風となり、ポッシュマークもその恩恵を大きく受けている。日本でも「SDGs」が近年バズワードとなっているようだが、少し意地悪な言い方をすれば、こうした「サステナビリティ」や「SDGs」に「乗っかった」サービスが今後は成長株だといえるだろう。

僕も1年くらい前までは、アパレルを中心にポッシュマークで買い物をしていた。今日び、中古品のマーケットプレイスなんて腐るほどあるわけだが、出品されているものの「比較的な」質の良さと(そういうのを選んで買っている、というのもあると思うが、僕が買った商品はそのほとんどが新品同然だった。)、トランザクションのスピード感(ほとんどのものが翌々日配達くらいで届く)、また、「個人を相手にしている」ことから生まれる温かみに個人的にはとても魅力を感じた。

ビジネス的な観察眼でいうと、ポッシュマークは「売り手」に対して多くの興味深いツールを提供している。賢く活用すれば、金銭的にもかなりうまい、そして娯楽的な意味で面白いサービスができるのではないかと思う。ポッシュマークは基本的にアプリ・ベースのサービスなので、アプリならではのスピード感や臨場感、「いつもつながっている」感覚もある。ポッシュマークが注目を浴び始めたとき、ユーザーが一日にアプリをチェックする頻度が話題になったが、使ってみてその理由がわかった。もちろん、僕は当時会社勤めをしていたから四六時中アプリとにらめっこをしているわけにはいかないが、二時間程度のブロックで開催される「ショッピング・パーティ」などのイベントもたくさんある。これらの「ショッピング・パーティ」はフラッシュ・セールみたいなものだが、テーマ(ブランドや商品カテゴリー)に沿ってセラーが一斉に商品を出品する。もし、特定のブランドを探している人、あるいは、「秋口に着る女性用のカーディガン」を探している人、「キャンピングに着ていく服」を探している人など、ある特定の目的があって買い物をする場合、それに該当する商品を一度に見ることができるのでとても便利だ。「期間限定」というエキサイトメントもあり、エンターテイメント性も高いことは言うまでもない。

・・・かなり脱線した。セラー向けのツールの話に戻ろう。

他の「ソーシャル・ショッピング・サイト」の類にもれず、ポッシュマークには、バイヤーが「センスがいい」や「好みが似てる」と感じるセラーに「フォロー」できる機能がある。「フォロー」しておくと、そのセラーが何か新しい商品を出品するたびに通知が届く。また、気になる商品には「いいね」をつけることができる。当然、セラーにも誰が「いいね」をしたかという情報がいくが、これを受けて、セラーはそのバイヤー限定の「カスタム・オファー」を提示することができる。

「あなただけに、こんな割引を差し上げますよ。送料をタダにしますよ」というオファーは、人の優越感を刺激するものだ。「あなただけに特別に・・・」と言われると、なんとなく「ポチッ」としてしまいたくなる。

また、よく買ってくれるお客様(バイヤー)には、「スタイリング・サービス」を提供することができる。何度も買ってくれているわけだから、セラーとしては顧客のテイストをなんとなく把握することができる。その「勘」に従い、自分が出品している商品を組み合わせて、「コーディネート」して、「セット価格」で提供するという仕組みだ。たとえば、トップとボトムとアクセサリ(たとえば靴)なんていうトータル・コーディネートをして、「これをセットでお買い上げいただけるならウン$」というディスカウント価格を提示するわけである。

余談だがバイヤーからもセラーに対して「カウンター・オファー(逆オファー)」をすることもできる。「19ドルで売ってるけど、15ドルなら買いますが」とか、「送料をタダにしてもらえませんか」などといったオファーだ。このように、ポッシュマークには、リアルな「のみの市」におけるやり取るを彷彿とさせる面白さがある。ネットではややハードルが高かった(オークション・モデルなどを除いては)「エンターテイメントとしての買い物」を独自のやり方で実装している。

そのポッシュマークがペット用品カテゴリーに参入した。理由は想像に難くない。ペット用品市場が「ホット」だからだ。同じく1月に、60年代から存在するペット用品のカテゴリー・キラー(量販店)ペットコが三回目の株式上場を果たし、初値から70%近く株価が上昇するという偉業を成し遂げたときには度肝を抜かれたものだが、今日、それほど「ペット市場」はアツいということだ。

ちなみにアメリカの中古品市場は現在280億ドル(2.9兆円)だが、2025年までに640億ドル(6.7兆円)に達するといわれている。これとペット用品市場との掛け合わせは、まさに「キラー・コンビネーション(最強のコンビネーション)」であるといえる。

パンデミックによるロックダウンがアメリカでは空前の「アダプション(ペットのもらい受け制度のこと)・ブーム」を引き起こした。米ペット用品協会(APPA)の調べによれば、2020年には全アメリカ世帯に「ペットもち世帯」が占める割合は67%に達した。(アメリカ世帯における犬と猫の総数は1.35億から1.84億の間だと推算されている。)

さらに、今日、ペットはもはや「愛玩動物」ではなく、「家族の一員」である。アメリカでは、「ペット・オーナー(所有者)」ではなく、「ペット・ペアレント(親)」という呼称がより好まれる。アメリカの22の自治体で、公文書の中で「ペット・ガーディアン(保護者)」が用語として用いられている。

「ペット・ペアレント」は「わが子」のためなら金に糸目をつけない。ペットが「愛玩動物」であった時代には、「オーナー」がペットに費やすお金は必要最小限のものだった。「ペット・フード(食品)」、そして、トイレ周りのサプライぐらいだろうか。そういった時代には、マーケット・ポテンシャル(市場潜在性)もさほど期待できるものではなかったのだ。

だが今は違う。「ペット・ペアレント」は、「わが子」にするようにペットにものを買い与えたい。アクセサリやおもちゃも豊富になければかわいそうだと思う。自分が使うわけではないが、自分が使うのと同様に楽しく、充足感がある。感謝祭にヒトが特別なごちそうを食べる日には、犬や猫にも特別な食事を食べさせたい。誕生日にはケーキも買ってあげたい。・・・ペットのための「ハロウィン・グッズ」市場が近年拡大している背景にはそういった「ペット・ペアレント」の心理的なニーズがある。

ラグジュアリに特化した中古品コンサインメント・ストアのザ・リアルリアルでは、バーバリーの犬用の食器、ヴィヴィアン・ウエストウッドの散歩用の皮ひもなどが125ドル(13,000円)~150ドル(15,700円)で販売されている。酔狂かもしれないが、買う方としてはそれで満たされているのだから、ウィン・ウィンといったところだ。

そうしたビジネス好機に目をつけて猫も杓子もペット用品市場に参入している中で、ポッシュマークがペット市場に参入したところで話題にも何もならない・・・と言われればそうかもしれない。ただ、ポッシュマークだからこそ、他の企業とは異なり、特に興味を惹かれる点がひとつある。

それは、彼らがいうところの「コミュニティ」の要素だ。どの企業をとっても、株式上場前の申請資料を読むとその企業が「売り」としているポイントが読み取れて面白いのだが、ちなみにポッシュマークの申請書類を見てみると、まずしょっぱなに「Our Mission is to put people at the heart of commerce (我々の使命は『人』を中心とした商取引を築くこと)」とある。さらに、「ソーシャル・インタラクション(「いいね」をつけたり、その他セラーとバイヤーの間で交わされるやり取り)」を、ユーザー数や通過額と並んで、「ポッシュマークのすごさ」を誇示する指標のひとつとして挙げている。(ちなみに、2019年には、205億件の「ソーシャル・インタラクション」があった。)

ポッシュマークはセラー同士、そしてセラーとバイヤーとの間の「交流」を奨励し、「コミュニティ」を作ろうとしている。これは、ハンドメイド・マーケットプレイスの「エッツィ」や、トラベル・マーケットプレイスの「エアビーアンドビー」にもみられる戦略だ。

「ペット用品」というカテゴリーは、「コミュニティ」の要素が特に重要視されるカテゴリーでもある。実生活を見てもわかるけれども、ペット・ペアレント同士はしぜんと仲良くなる傾向にある。犬好きは犬好き、猫好きは猫好きで盛り上がる。公園でナンパをしたかったら、犬を連れて歩くといい、というジョークのような(しかし実体験に基づく)アドバイスもある。過去には、ペット・ペアレント同士の出会い系サイトまで存在した(今もあるかもしれない)。

犬用の玩具とおやつに特化した定期購買ボックスで大成功を収めている「バークボックス」も、その商品企画力が優れているばかりでなく、「わが子を見せびらかしたい」というドッグ・ペアレントの心理を巧みにとらえ、インスタグラムなどの画像系ソーシャル・サイトをベースにハッシュタグつきの写真の投稿を募ることで「バークボックス・コミュニティ」を育成している。

ペット・ペアレント同士がつながれる「コミュニティ/ソーシャル機能」と物販を組み合わせたビジネスは過去にも存在したが、おそらくスケールがついていかずとん挫した。ポッシュマークの強みは、安定したプラットフォームと、すでに活発かつ熱烈な「ユーザー・ベース」を抱えていることにある。つまり、早期の「ネットワーク効果」が期待できるのだ。それに、ポッシュマークのビジネス・モデルではポッシュマーク自身は在庫をもたない(セラー自身が在庫をもち、発送作業を行う)ので、極端にいえば瞬時にしてカテゴリー拡張が可能である。「さあ皆さん、ペット用品の売り買いもできますよ!」と声をかけるだけで、ヒト・モノが集まってくるのだから。

すでに混みあってきているペット用品市場におけるポッシュマークのイノベーションに満ちた展開を期待したい。

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