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「ダラー・ストア」はフード・デザート(食の砂漠)の救世主になりうるのか?

今、すごく気になっていることのひとつに、英語(アメリカ)では「ダラー・ストア」と呼ばれる、「エクストリーム・ディスカウンター」の存在がある。名前が示すとおり、「ダラー」、つまり、日用雑貨を中心に1ドル程度の価格で販売する小売店舗フォーマットのことだ。日本でも知られているウォルマートやターゲットが、従来的な意味での「ディスカウンター」であるとするならば、彼らよりも価格帯を低く設定して、徹底的に価格で勝負する店舗フォーマット/小売業者のことを、「ダラー・ストア/エクストリーム・ディスカウンター」と呼んでいる。

日本の人に言わせると、「ああ、百円ショップみたいなものね」というかもしれない。だが、アメリカの「ダラー・ストア」は、そこまで気がきいていない。少なくとも、「きいていなかった」。つい最近までは。

僕は日本の「百円ショップ」は、出張で滞在するたびに一度は行くようにしているが、商品企画力もあるし、「安かろう悪かろう」ではないし、店舗ベースの小売がお手本とすべき「エキサイトメント」であふれていると高く評価している。一方で、アメリカの「ダラー・ストア」には、「貧困ビジネス」的な暗いイメージがあり、(僕に言わせると)商品もあまりぱっとしない。とはいえ、白状すると、もうかれこれ10年くらい「ダラー・ストア」なるものには足を踏み入れたことがないから、これはただ単に僕の偏見で、今では品揃えも質も改善されているのかもしれない。

少なくとも最近までは、アメリカの「ダラー・ストア」は取扱い商品の幅が狭く、商品の質自体も「チープ」な感じだった。また、立地も、都市部ではちょっと微妙なエリアに集中していて、正直、行きづらい印象があった。

僕の住んでいるロサンゼルスでは日本の「DAISO(ダイソー)」が出店していて、日本人や日系アメリカ人はもちろんのこと、他の人種のアメリカ人にも大いに好評を博している。店内は明るくて清潔感があり、あれも、これも、買いたい商品ばかりがところ狭しと並んでいる。日本のダイソーほどではないが、店舗ベースの小売には欠かせない「行けば掘り出し物が見つかる、というディスカバリー」の要素が仕込まれている。

アメリカの「ダラー・ストア」に話を戻すと、数年前から、「ウォルマート」を脅かす存在になりつつあるとして注目を集めてきた。ひとつには、アメリカの生活者が二極化して、富めるものはより豊かになり、持たざるものはより貧しくなっているという時代背景があるだろう。ただ、そればかりではなく、ダラー・ストアも「貧困ビジネス」のイメージから脱却することに力を注いできている。

ひとつの大きな方向転換は、生鮮食品の取り扱いを開始したことだ。これは、実は、ダラー・ストアの大手ではないが、カリフォルニア、僕の住むロサンゼルスでは幅を利かせているローカルなダラー・ストア、その名も「99セント・ストア」などは、大手に先んじてもう10年以上前から生鮮食品の取り扱いを始めていた。

当時、僕は「ダラー・ストア」と聞いただけでふんと鼻で笑うようなスノッブだったが、僕の親しい友人であり倹約家のK氏が「99セント・ストア」のロイヤル顧客であり、その素晴らしさを興奮気味に語ってくれたことを覚えている。彼女は、「99セント・ストア」で売っているレタスやニンジンなどの野菜がいかに新鮮で、そのへんのスーパーなんかに比べて格段に安いかについて語っていた。「スイカも99セント・ストアで買っている」と聞いて、僕は「へ~」と感嘆の声を漏らしたものだ。

それでも僕がダラー・ストアに行くうえでのインセンティブにはならなかったが、K氏が決して「安物買い」をする人ではなく、いわゆる「賢い」ショッパーであることから、K氏がここまでアツく推奨するダラー・ストアとはどんなものかと興味を惹かれるきっかけにはなった。

(K氏は小金を貯めて数年前に一軒屋を買い、その広大な敷地内に離れを建て、今では大家となっている。)

なぜ今日、僕がこんな話をしているかというと、「ダラー・ジェネラル」というアメリカでは最大のダラー・ストアについての報道を見たからだ。ダラー・ジェネラルはニューヨーク株式市場で取引されている上場企業であり、その年商は278億ドル(2.9兆円)、店舗数は16,278店舗にものぼる(米国内のみ)。アメリカ国内のウォルマートの店舗数がだいたい5,000店舗くらいだから、16,000という店舗数は「すさまじく多い」ことがわかる。

(もちろん、ウォルマートの店舗面積が巨大であるのに対し、ダラー・ジェネラルをはじめとするダラー・ストアの店舗はかなり小ぶりだ。ウォルマートの店舗が平均17万8,000平方フィート(1万6,500平米)であるのに対し、ダラー・ストアは平均7,500平方フィート(697平米)。取扱アイテム数も、ダラー・ストアは1万アイテム未満で、ウォルマートの10分の1程度である。)

話題になっている最大の理由はずばり、「食品」カテゴリーへの注力だ。ダラー・ジェネラルでは近年、生鮮食品や冷凍食品の品ぞろえを強化している。従って、ウォルマートやターゲットのようなディスカウンターはもちろんのこと、一般のスーパーやドラッグ・ストアとも真っ向から競合するようになっている。

パンデミックの影響で多くの人が在宅勤務を強いられ、また、レストランのような外食サービスも(テイクアウトやデリバリーはあるが)多くが休業状態にある中で、家庭で調理をする人が増え、そのため、「食品」カテゴリーの充実は小売店舗にとって今までにも増して重要な成長・差別化戦略の礎石となった。

また、生活雑貨カテゴリーでは、「貧困ビジネス」からのイメージチェンジを図り、より若くより収入の高い層を視野に入れた新しい店舗フォーマットの展開に着手している。「巣ごもり」のトレンドに便乗し、住空間を明るく楽しくスタイリッシュにするインテリア雑貨などの取り扱いに力を入れていく予定らしい。

パンデミックで店舗での客足が一時期衰えたとはいえ、ダラー・ストアの売上は好調である。ダラー・ジェネラルも、直近の四半期売上は前年比17.3%増で81億ドル(8,500億円)だった。

ダラー・ジェネラルのもつ16,000というすさまじい店舗数に言及すると、そこにはある背景と「意図」が存在する。そのほとんど(75%)が、都市部やその郊外ではなく、いわゆる田舎や小さな町にある。英語(アメリカ)には、「フード・デザート」という言葉があるが、この「デザート」は食後に食べる甘味の「デザート」ではなく、「砂漠」という意味である。つまり、食品を扱う店舗などが乏しく、生活者が新鮮な食品にアクセスできない地域のことを指す。ダラー・ジェネラルはこの「フード・デザート」に着目して店舗展開を行ってきた(ウォルマートのルーツも、アーカンソーから始まり、店舗(つまり「モノ」)へのアクセスが乏しい地域に集中して出店を行ったことが初期から中期にかけての爆発的な成長をもたらした。)

ダラー・ジェネラルがその思惑どおり、こうした新鮮な食品へのアクセスが乏しい地域に良質なモノを手ごろな価格で届けられるならば、それはある意味での社会貢献になりうるだろう。僕はダラー・ストアのサプライ・チェーンには詳しくないが、ここでさらに、ダラー・ストアのような市場影響力の大きな流通業者が、地域の中小農業事業主(スモール・ファーム/ファミリー・ファーム}をサポートするプログラム/サプライ・チェーンを設けたなら、より意義深い社会貢献になるのに・・・と考えずにはおれない。

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