【超短編】軽薄な女をチャンスが見捨てる話
夜が"ぱっ"と輝いた。スクランブル交差点の中でたったひとり、私のもとへ指向性の光が降りてきた。
透き通った足が白線に立ち、伸びた翼がやわらかに震える。いくつも飛んだ彼女の羽は、ものに触れるたびに、"ぱっ"と消えていった。
天使とは似ても似つかぬ鋭い目、鳥のような体毛がまとわりついて、ちょうど私だけを見下ろした。
誰も気づかぬ非常感が、私からいつもの感覚器官を取り去った。
やつは部屋にもついてきた。刺されるような目の奥で焦点がぐるりと巡ったのを見た。
ほこりのついたピアノ、弛んだ弦のギター、綺麗に綴じられた本が積まれ、コントローラーはモニターに繋がれたままだった。
その日私は何もせず、夢は覚めろと瞼を落とした。
"ぱっ"と気がついて、アラームの鳴らない時計が目に入った。
時刻は十三時。
私は天使を失った。