「電子政府」なのに書類添付が必要な行政手続きが48億件もあるって知ってましたか?(1)
ネット処理は手続きの13%、件数の約6割
内閣官房IT総合戦略室と総務省が「行政手続等の棚卸結果」を公表したのは昨年3月末だった。調査統計の紹介が本稿の半分以上を占めるので数字が羅列され、「読む記事」としてはたぶん面白くないだろう(と予防線を張っておく)。
で、資料によると2018年8月末現在で23府省が所管する行政手続きは4万6,385種類、1年間に行われた手続きの総数は約48.3億件だった。そのうち法令でオンライン処理可とされている手続きは5,944種類(12.8%)で、28億件(58.0%)がオンラインで処理されたという(電子政府システムはインターネットの利用を前提にしているので、「オンライン」の用語がそぐわない。そこで本稿では以下「ネット」と表記する)。
ネット化率について報告書は「手続き種類数ベースで13%、件数ベースで73%」とする。手続き種類数ベースは少数点以下を四捨五入すれば13%になるのだが、ネット処理率には目眩ましが潜んでいる。報告書がいう「件数ベース」の母数とは、ネット処理が可とされている5,944手続きで処理された35.3億件を指す。
つまり73%という数字は35.3億件に占めるネット処理の構成比であって、その実数を逆算すると25.8億件となって、総数を2億件以上下回る。2億件超がどこに消えてしまったのか、報告書は明らかにしていない。いずれにせよ、全体48.3億件に占めるネット処理の割合は58.4%ないし58.0%というのが正しい。
経済効率で見れば580手続きで十分
4万6,385手続きのうち、法令でネット対応が禁じられているのは3,169種類だ。可否が判然としない73手続きを除いて、残る4万3,143手続きが法令でネット化が可能、ネット化実施5,944手続きの構成比は13.8%なので、これだけ見ると「行政手続きのネット化はほとんど進んでいない」と判断を誤ってしまう。
行政手続きのネット処理については、「行政手続のオンライン利用の範囲の判断に係る実施要領」(内閣官房IT担当室/総務省、2011年8月)が、当該手続きを紙ベースで処理する諸経費と、ネット化する場合のシステム構築・運用費を1件当たりで比較検討するよう求めている。
年間申請が40件以下の手続きが約2万種類もあって、これを強いてネット化するのは論外だ。ネット化することによる経済効果を考えると、システム構築費、運用費が合わないのだ。だけでなく、紙とネットのダブルスタンダードが、行政の現場に混乱が生みかねない。
経済効率で見ればネット化がふさわしい手続きは年100万件以上の179種類、10万件以上の401件の計580種類、約1割に絞られる。ネット化されている5,944手続きの中には、経済効率より国民の利便性を重視しているケースもあるだろうが、大半は「勢い」「成り行き」でシステムを作ってしまった可能性が高いと思われる。猫も杓子も電子申請、ネット処理ではなく、適正を評価して見直す必要がありそうだ。