行政手続きから紙とハンコを撤廃できるか(4)
行政手続きは年48.3億件
ところで、1年間に「行政手続き」がどれほど行われているかを調べると、手続きの種類は4万6,385種、件数は48億3,227万件だという(昨年8月現在:2018年3月公表「行政手続等の棚卸結果」)。そのうち法令で「ネット処理可」とされているのは5,944種類(12.8%)で35億2,786万件(73.0%)、ネット化が禁じられているのは3,169種類(6.8%)で1億4,881万件(3.1%)だ。
この数字を鵜呑みにすると、行政手続きの7割以上がすでにネットで処理されていることになるので、わざわざ法律を定める必要はない、というのが一般の受け止めに違いない。ところが「ネット処理化」とされている手続きでも、実際には多くが紙で行われている。例えば確定申告は「ネット処理可」だが、2,197.7万件のうち完全なペーパーレスは763.8万件(21.1%)に過ぎない。
次に年間の件数ベースで見ると、100万件以上の手続きは179種(0.4%)で46億7,857万件(96.8%)、10万件以上は401種(0.9%)で1億1,727万件(2.4%)だ。このうち現物性(手帳や免状、資格証明書など書面の掲示)や申請者の出頭・対面を要するものが139件ある。「ネット処理可」で年間手続き件数が10万件以上の441手続きについて、デジタル・ファーストを徹底すれば、行政手続きのデジタル化は一気に進む。ネットでも書類の送付でもOKとするダブルスタンダードが行政の現場に混乱を生み、職員の疲弊につながっている。
また馴染みのある手続きのネット処理率は、「登記」にかかる5手続き(不動産登記、法人登記など)は2億2,026万件のうち1億5,072万件(68.4%)、「国税」(所得税申告、給与所得源泉徴収票、不動産売買等の手数料など)にかかる15手続きは3,245万件のうち1,956万件(60.1%)、「社会保険・労働保険」にかかる32手続きは1億5,886万件のうち1,876万件(11.8%)などとなっている。年金にかかる諸手続きのネット処理率が極端に低い。
「ネット処理可」でも書類
共通しているのは、申請・申告はネットでできるが、実際の手続きには紙の書類を提出しなければならないことだ。個人であれ法人であれ、申請書に住民票や領収書などを添付し、署名・捺印をして提出しなければならない。逆に見れば、本人確認が電子的に認証され、添付書類を省略できるようにする。それが行政手続きのデジタル化ということだ。
「行政手続等の棚卸結果」でもう一つ明らかになっているのは、申請時に書類を添付する規定だ。ここでいう書類とは、住民票、戸籍、商業法人・不動産の登記事項証明書、印鑑登録証明書、所得・納税証明書、定款、決算書、各種の資格証明書などを指す。
調査によると、申請時に書類を添付するよう規定している法律は、累計で717本だ。個人の手続き申請で住民票の添付を求める法律が33本、戸籍は16本、印鑑証明書が2本、法人の場合は定款が255本、決算書が209本、各種の資格証明書が122本、登記事項証明書が61本という具合だ。
法律以外にも書類添付を規定する定めがある。政省令・規則、通達・ガイドラインなどだ。政省令・規則は5,420本と法律の約7.5倍、通達・ガイドライン・その他は3.5倍の2,523本となっている。実務を運営しているうちに、法律を補うためであったり「念のため」に書類の添付を求める規定が現場ごとに作られ、見直されないまま現在にいたっている。
地方公共団体が独自に定めている条例もあって、「官僚の無謬」を原則とするこの国の行政手続きは、申請者に自らを証明する書類を添付して申請するよう、ガンジガラメになっている。すべてにハンコが必要とは限らないが、「ハンコをなくす」は掛け声倒れに終わりかねない。
紙とハンコに国民もガンジガラメ、役人もガンジガラメだ。FAX、複写機(「コピー」はRICOHの登録商標)、プリンタはその延長線上にある。「ハンコをなくす」には制度設計の見直しが必要だ。