取り返しがつかない冤罪をどう防ぐ/人が間違えるならAIでは…:山下郁雄
TOP写真「裁判沙汰で埋まった10月10日付の日経新聞第1社会面」
写真は10月10日付の日経新聞第1社会面(最終面の裏側)。袴田事件、大川原化工機・不正輸出問題、知床遊覧船・沈没事故、カッパ寿司・営業秘密不正使用問題ーと、いずれも裁判に関わる四つの記事が載っている。新聞の第1社会面がすべて裁判沙汰で埋まるのは極めて稀。それだけ、注目の司法事案が重なったということだろう。そのうち、袴田、大川原は、それぞれ個人と企業が被告となった冤罪事件であり、前者は無罪確定までに58年を要し、後者は嫌疑をかけられた企業幹部が拘留中に体調を崩し亡くなった。なぜ、取り返しがつかない事態に直結する冤罪が起きてしまうのか。
『事件58年、袴田さん無罪確定』の見出しを付けた記事では、識者のコメントを掲載している。門野博・元東京高裁部総括判事は「今回の事件は日本の刑事司法が抱える様々な課題を改めて浮き彫りにした。証拠開示のルールがないなどの再審制度の不備や自白に偏重した捜査の危うさはその一例」と、現状の司法制度は課題山積だと指摘。併せて、「検事総長が談話で、その判決への不満を連ね〝到底承服できない〟と表明したことは見過ごせない」と総長談話への違和感を語っている。一方で、伊藤鉄男・元最高検次長検事の「検事総長が談話を通じて断念した理由や承服できない点などを明らかにしたのは評価できる」とのコメントも紹介している。
■立件の理由は決定権者の「欲」
Q:公安部と経産省との間で堂々と「ガサまではいい。別件を見つけてくれるとありがたい」なんて話をできるのか。
A:恥ずかしい相談です。あってはいけない、法令を無視しているような話です。
Q:警察で独自の殺菌理論を考えてまで立件しなければならなかった理由はどこにあったのか。
A:組織としてはありません。日本の安全を考えたためではありません。(捜査の)決定権を持っていた人の「欲」でしょう。
Q:「欲」とは捜査幹部が捜査によって自分の利益を確保するということか。
A:そうとしか考えられません。
上記のQ&Aは9日、東京高裁で開かれた大川原化工機・控訴審弁論の抜粋(『毎日新聞 追跡 公安捜査』から引用)。Qは原告側(企業側)弁護士の質問、Aは捜査に関わった警部補の答弁で、何とも生々しく赤裸々なやりとりが繰り広げられている。同控訴審の1日前の8日には、東京地裁で東京五輪汚職事件で贈賄罪に問われた角川歴彦KADOKAWA元会長の初公判があった。角川氏は「私は無実です。起訴事実は全く身に覚えがなく、検察官が勝手に作り上げた虚構です」と無罪を主張した。大川原化工機、KADOKAWAの二つの裁判には同じ匂いが感じ取れる。さらに、同類項の事案として、38年前の殺人事件の再審決定というトピックも出てきている。
年初め、郵便局を巡る英国史上最悪の冤罪事件に富士通子会社が関わったと大きく報じられた。洋の東西を問わず、冤罪はいつでもどこでも起きる。では、冤罪を防ぐ手立ては何か。幾何級数な加速をもって進化を続けるチャットGPTに尋ねると①捜査手法の見直し:取り調べの録音・録画を徹底し、捜査の透明性を確保する②証拠の客観性:証拠の収集と分析を厳密に行い、証拠の評価を複数の専門家に依頼する仕組みを整える③弁護人の早期関与:逮捕直後から弁護人が容疑者と接触し、適切な法的助言を提供する④監視機関の設立:捜査や裁判の過程を監視する独立した機関を設立するーと列挙。その上で「これらの組み合わせで法制度全体が公正で透明性のあるプロセスを確保することが最も効果的な冤罪防止策」とご託宣。
■AIが冤罪リスクを大幅に減らす?
チャットGPTをはじめとするAI(人工知能)は近い将来、すべての面で人間を凌駕するAGI(汎用人工知能)に行き着くと見られている。では、そんな近未来のAI、AGIに検事や裁判官を任せたら、冤罪ゼロが実現するのではないか。その問いをチャットGPTに投げかけたら「(AI・AGI判事&裁判官の出現で)冤罪のリスクは大幅に低減される可能性がある。
ただ、完全に冤罪ゼロが実現するかどうかは倫理や法的判断のあり方、社会的な要因にも依存する。すべてのケースで100%の公正さを保証するには、まだ課題が残る」と返してきた。どうやら、まず端役の一人として採用し、脇役-準主役-主役と役どころを徐々に上げていくのが司法システムにおけるAI利活用のベストシナリオのようで…。