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なぜ公務員の不正・不祥事が続くのか:大澤賢

 当欄では主に、政権の失政や民間企業の不祥事を批判しているが、最近は自衛隊・防衛省や大阪地検、鹿児島県警、そして兵庫県知事など国・地方公務員の不正・不祥事が相次いでいる。地位を利用したパワハラ・セクハラ、国の安全保障にかかわる「特定秘密」のずさんな取り扱い、手当(税金)の不正受給、さらに不正を指摘した内部告発者を逮捕・懲戒処分するなど、中身が悪い。  なぜ不祥事が続出するのか。その理由を捜ってみた。

●目立つ公僕精神・順法意識の欠如
 自衛隊は今年7月1日、創設70年を迎えたが、その節目の年に不正・不祥事が続出した。海上自衛隊の潜水艦修理事業では、受注した川崎重工業が下請け企業との架空取引で裏金を作り、潜水艦乗務員らに商品券やゲーム機など家電製品を提供していた(7/4各紙)。また海自では潜水訓練で支給される潜水手当でも、多額な不正受給を行っていたことが判明した(7/12各紙)。
 さらに安全保障にかかわる機密情報「特定秘密」で、資格のない隊員に日常的に担当させていたことも発覚。同省は7月12日、「特定秘密保護法」違反で海自隊員ら113人を処分した。同時にパワハラや潜水手当の不正受給などの処分も実施。事務方トップの防衛事務次官や制服組トップの統合幕僚長、陸上幕僚長、航空幕僚長、情報本部長の最高幹部5人を訓戒とするなど、懲戒を含め218人を処分するという過去最大・前代未聞の措置となった。
 自衛隊ではここ数年、不祥事が目立つ。2022年9月、女性の元陸上自衛官が実名でセクハラ被害を訴えて裁判となり、社会問題になったことは記憶に新しい。さらに海自一等海佐がOBに特定秘密を漏洩して懲戒免職(22/12)。陸自ヘリの墜落(23/4)、海自ヘリ2機の衝突(24/4)など航空事故も相次いだ。
 自衛隊員や防衛省職員は、閣僚や裁判官などと同じく国家運営で重要な役割を担う「特別職」国家公務員だ。本来ならば国民に徹底奉仕する志(公僕精神)と、憲法はじめ諸法令を厳格に守る順法精神が求められる存在である。筆者の取材経験からも、公務員は一般的に閉鎖的・独善的に陥りがちなところがある。外部の視点を取り入れ、早急に再発防止策を確立することが急務だ。

●不十分な公益通報者の保護
 国家権力を行使する「特別公務員」の検察・警察でも不祥事が相次いだ。大阪高検は6月25日、元大阪地検トップ(検事正)だった弁護士を「準強制性交」の疑いで逮捕、7月12日に起訴した。在職中の18年9月、当時の部下(女性)に対して地位を利用した性犯罪を行ったとされるが、大阪高検は逮捕時に「被害者のプライバシー保護」を名目に、具体的な容疑内容を明らかにしなかった。
 鹿児島県警は情報漏洩事件で大もめだ。発端は警枕崎署員の盗撮容疑(23/12)だが、逮捕は今年5月と遅れた。この間、元生活安全部長が「本部長が事件を隠蔽した」趣旨の情報を報道関係者に郵送。元生安部長は「守秘義務違反」で逮捕(5/31)・起訴された(6/21)。本部長は一貫して隠蔽を否定したが、警察庁は本部長を訓戒処分するとともに、同24日から異例の「特別監察」を始めた。
 一方、兵庫県知事のパワハラ疑惑も現在進行中だ。今年3月中旬、県西播磨県民局長が、現知事のパワハラや企業からの贈答品受け取りなどを告発する文書を作成・配布した。すると県は内部調査で文書を「誹謗中傷」と認定。5月7日、同局長を停職3か月の懲戒処分とした。これを疑問視した県議会は6月13日、「百条委員会」を設置、7月中旬に同局長を呼んで証人尋問する予定だった。ところが同局長は7月7日自殺。「死をもって抗議」したと見られている。
 その後、県職員労働組合や自民党兵庫県連会長らが知事に辞職を求めるなど、波紋は広がった。だが知事は「一日一日の仕事をしっかりやっていくのが私の責任だ」(7/15会見)と述べ、元幹部の告発や辞職要求を無視する構え。
 元鹿児島県幹部や元兵庫県幹部の内部告発では、「公益通報者保護法」が十分機能していない実態を浮き彫りにした。同法は22年に改正され、内部告発者が不利益を被らないよう規定しているが、報復措置への罰則はない。兵庫県知事は「公益通報には当たらない」と議会で表明したため、県は公益通報窓口とは別の内部調査を行って、懲戒処分を決めてしまった。
 過去にオリンパスなど民間企業でも内部告発があったが、告発者は配置転換されるなど不利な取り扱いを受けるースが多かった。公益通報者を社会全体で守るためには、やはり法改正(罰則強化)を早く実現する必要がある。

●政治家・政権の堕落が一因?
 公務員の不祥事の原因を捜っていくと、不思議なことに政治家・政権の劣化と連動していることに気が付く。官僚の上に立つ政治家・政権の法令無視・国会軽視の振る舞いが、公務員に悪影響を与えているのではないか。
 潜水艦補修での川崎重工業との癒着は20年前から始まったとされるが、その間はほぼ自民党主導政権である(2009~12年は民主党政権)。その政権下で起きた象徴的な不祥事は、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件だ。
 2018年から5年間、自民党国会議員85人はパーティー券収入の一部を政治資金収支報告書に記載しなかった。事務所経費や秘書手当、香典などに使った総額は6億7654万円。東京地検特捜部は今年1月強制捜査に乗り出したが、起訴した議員は3人のみ。自民党内の処分は甘く、岸田文雄首相らは“無罪”だった。
 さかのぼれば、第二次安倍晋三政権での強権政治がある。政権復帰(2012)後、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使容認を閣議決定で行った(14)。続く安全保障関連法案でも個別法案の審議を十分に行わず成立させた(15)。
 また国有地の払い下げをめぐる「森友学園問題」(16-17)では、安倍首相の夫人が関与していたとされながら、真相解明は進まなかった。その過程で担当していた財務省官僚が自殺するなど、社会問題になった。
 民間企業の不祥事の多くは「現場力の低下」が原因だ。政治家・政権の不祥事は、高潔な人材の不足と小選挙区制度の弊害など「政治基盤の劣化」と考えられる。公務員不祥事の本当の理由は不明だが、庶民と接する機会が多い公務員の劣化は耐え難い。一日も早く、まっとうな「公僕」の登場を期待したい。

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