「不安>期待」の千歳ナショプロ=ラピダスが離陸:山下郁雄
トップ写真はNHKホームページより
「京(けい)」とは位の一つで、兆の1万倍、10の16乗を意味する。「京」と名付けたられた、あるものの開発物語が10日ほど前、NHK新プロジェクトXで紹介された。添付写真に示されているように、「京」はスパコン(スーパーコンピューター)の呼称。京オーダーの世界一の計算速度を目指したのがその名の由来となる。極大の京の真反対に位置する単位に、10億分の1を表す「ナノ」がある。今、このナノオーダーでの世界一を目指すプロジェクトに注目が集まり、プロジェクトは是か非か、成功の可能性はあるやなしや、賛否両論、かまびすしさが増すばかりとなっている。
半導体の性能に直結する回路線幅が2ナノメートルと、世界でも未踏の領域に挑戦するのがラピダスだ。同社では、目下の世界最高水準3ナノメートルの3分の2の線幅となるロジック半導体の量産化を事業目標に掲げている。3ナノか2ナノか。たかが1ナノの違いだが、半導体開発の最前線では天と地ほどの差がある。2ナノを実現し、かつて世界を席巻した日の丸半導体を復活させようと、経産省主導のナショナルプロジェクトとして2年前、同社が立ち上がった。来春(2025年4月)試作開始、2027年量産開始の青写真を描いている。
■法整備し支援を続ける
ラピダスを巡る最近の動きは次の通り。
4月2日:政府がラピダスへの700億円、2600億円に続く3度目となる5900億円の追加支援を発表
4月11日:ラピダスが米シリコンバレーに営業拠点を開設-6月11日:次世代半導体の量産に向けた法整備の検討を明記した骨太の方針2024(原案)を公開
6月19日:斎藤経産大臣が北海道・千歳で建設中のラピダス工場を視察し「工事が順調に進捗していることを確認した。国の支援は今後も状況に応じて検討していく」と発言
空高く離陸しようとするラピダスプロジェクトに対し、辛辣な見方が少なくない。その代表格が、週刊現代でラピダス問題を連載中のジャーナリスト、大西康之氏の見解だ。連載初回の6月8・15日号では「1兆円もの税金をつぎ込んだ半導体会社ラピダスが、大失敗しそうな3つの理由」の見出しのもと
①技術革新が速い半導体業界で世界トップに躍り出るという野心的プロジェクトを率いるのが、東哲郎会長、小池淳義社長の70代コンビでは無理がある
②開発現場の人材がどれだけ揃うか。1億円超の年棒も提示するライバルに対し500万~1300万円でどこまで戦えるのか
③仮に2ナノメートル半導体の量産に成功したとしても、それを使う顧客がいるかどうか
―—の3点を指摘している。
一方、真壁昭夫多摩大学特別招聘教授は「さまざまな議論があるが、ラピダスの事業立ち上げには相応の可能性があると見られる」「半導体の微細化などを支えれる要素技術面で、わが国の比較優位性は高い。微細、精緻な国内企業の製造技術とIBMなどが持つ最先端のチップ開発力を結合することで、ラピダスがAIチップの供給力を高め、世界の需要を取り込むことは可能だろう」(プレジデントオンライン)と期待を寄せる。
■「2ナノへの挑戦」が放映される日が来るか
「2位じゃダメなんですか」ースパコン「京」からすぐ連想されるのが、今、時の人となっている蓮舫さんが、民主党政権時代の事業仕分けの場で発したこの言葉。京の開発は、紆余曲折の末、廃止・縮減を免れて、総額1120億円のナショプロとして遂行され、新プロジェクトXで取り上げられるだけの成果を収めた。
試作までで2兆円、量産までには5兆円かかるといわれるラピダスプロジェクトに、待ったをかける向きは今のところ見当たらない。ただ、数兆円の巨費を首尾良く調達できるかをはじめ不透明な点が多々あり、視界不良、前途遼遠なのは間違いない。果たして、新プロジェクトXあるいは新新プロジェクトXが「2ナノへの挑戦」を放映する日がいつか訪れるのだろうか……。