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ノーベル賞とmRNAワクチン:山下郁雄

TOP写真は昨年、生理学・医学賞を受賞した米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ氏(左)と同大のドリュー・ワイズマン氏
(ノーベル財団ホームページより)

この記事は9月30日に掲載されたものの再掲です。

 明日から10月。早いもので2024年も残り3ヵ月、1年の4分の3が終わった勘定だ。この時期、毎年、ノーベル賞が発表される。今年は1週間後の10月7日が生理学・医学賞、8日が物理学賞、9日が化学賞、10日が文学賞、11日が平和賞と、来週月から金まで連日続いて、週をまたいだ14日・月曜の経済学賞まで、合計六つの賞が明らかになる。ところで明日10月1日から国内で昨年の生理学・医学賞受賞案件と深く関わる新たな取り組みが始まる。この取り組みを巡っては、賛否両論かまびすしさが増すばかりとなっている。
  英情報調査会社クレアイベイトが19日発表した「今年の引用栄誉賞」は、同賞受賞者=その年のノーベル賞有力候補となる注目の賞。合計22人の受賞者の中に2人の日本人が含まれている。眼球の運動や複雑な手の動きと大脳の特定部位の関係を突き止めた米国立眼病研究所・彦坂興秀氏(生理学・医学分野)と、光触媒により水素を効率良くつくり出す方策を考案した堂免一成・信州大特別特任教授(化学分野)だ。2021年以来3年ぶりの日本人受賞となるか。もう一人、今年は前評判がほとんど聞こえて来ないのがかえって不気味な文学賞万年候補の村上春樹。世界で活躍する大谷翔平、真田広之の流れに乗る可能性は決して小さくないと思えるのだが…。

■新聞・テレビは礼賛一色、ネットは異議&辛口コメント
 昨年のノーベル各賞の中で、最も話題をさらったのが「新型コロナウイルス対応のmRNAワクチン」の開発に貢献し、生理学・医学賞に輝いた米ペンシルベニア大研究者のカタリン・カリコ氏らである。新聞・テレビは礼賛一色。ハンガリー生まれのカリコ氏が東西冷戦下、テディベアに現金を隠して出国し米国に渡ったエピソードなどを大きく取り上げ、功績を称えた。一方、ネット上には「治験が乏しい人体実験中のワクチン、評価は時期尚早」「副作用の深刻さに目を向けるべき」「ノーベル賞の政治的・経済的側面が如実に表れた」など、異議申し立て&辛口コメントが溢れていた。
  昨年10月2日のmRNAワクチン・ノーベル賞受賞からちょうど1年の明日10月1日、「レプリコンワクチン」なるものの接種が始まる。同ワクチンは、次世代型mRNAワクチンと呼ばれ、mRNAが細胞内で複製され自己増幅する新タイプ。米国で開発、ベトナムで治験が行われ、日本のMeiji Seika ファルマが製造販売する。厚労省ワクチン分科会は19日、今シーズンの定期接種に使う新型コロナワクチンについて「レプリコン」を含む5製品の使用を了承。これにより、65歳以上の高齢者および基礎疾患のある60-64歳の人を対象にしたレプリコンワクチンの接種が世界に先駆け日本でスタートする。

■日本のみ認可のレプリコンワクチン
 「世界で唯一日本のみで認可された自己増殖型mRNAワクチン(レプリコンワクチン)の安全性および倫理性に関する懸念を表明します。…人間の遺伝情報に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します。…」(日本看護倫理学会)、「当会はこのレプリコンワクチンに限らず、mRNA-LNP(脂質ナノ粒子)をプラットフォームとするすべての新型コロナワクチンの承認取り消しと使用中止を求めるものです。…レプリコンワクチンにより、人によっては従来のmRNAワクチンより大量のスパイクタンパクが産出されてしまい、これまで以上の重篤な健康被害が及ぶ危険性も十分に予想されます。…」(全国有志医師の会)
 これらの危惧に対し、武見厚労大臣は「本剤(レプリコンワクチン)の安全性については、ファイザー社の新型コロナワクチンと比べて有害事象の種類や、あるいは発現割合等に明確な差は認められていません」(17日の記者会見より)と発言。政府・厚労省は、そうした認識のもと粛々と事を進め、いよいよ明日、世界初のレプリコンワクチン接種の日を迎える。ノーベル賞という絶大な権威、最高のお墨付き得たmRNAワクチンだが、依然、未知なる点、特に安全性に関する不明な部分が少なくない。いわんや次世代型mRNAワクチンをや、である。ここはブレーキを強く踏むしかないはずだが…。


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