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危機的状況の日本のものづくり~シャープの液晶生産撤退に思う:高橋成知

経済記者シニアの会(https://www.pr-konwakai.com/)「経済記者シニアの眼」http://blog.livedoor.jp/corporate_pr/ から転載しました。
写真はシャープディスプレイ(株)亀山工場のホームページから

 世界中のTVをブラウン管から液晶に変えてしまった日本の液晶パネル。その代表的な企業であり、一時期、“亀山モデル”などと称賛され続けてきたシャープが液晶の生産撤退を表明した。
 これは日本のものづくり、電機産業の大幅な敗戦を象徴する出来事であろう。80年代から日本の電機産業はVTRやパソコンなど、精緻なものづくりで故障しない、使いやすいと数々の商品を生み出し、“目のつけどころがシャープ”などのキャッチフレーズで持てはやされていた。しかし、バブルがはじけてからは、家電業界も大型の商品開発がなくなり、目新しい商品のないまま、更新需要のシェアの取り合いに終始していたように感じる。
 しかし、液晶パネルは世界中のTVやパソコンなどに需要が見込まれていて、シャープは三重県亀山町や大阪府堺市に大型の工場を建て、液晶事業の先頭を引っ張っていた。
 JEITAの当時のCEATEC展では、日本の各メーカーの展示ブースには液晶のパネルが大型から小型まで並べられ、「どうだ」と言わんばかりの展示に筆者は批判をしたものだ。

 世の中がインターネットなどの通信の時代に入ってきているのに、ハードの液晶を並べるだけの展示に大いに不満を持った。当時、JEITAの会長だったシャープの社長の周りには、大手の新聞記者が囲んでいて、中々話を聞くことが出来なかった。
 その展示会には韓国のメーカーも液晶メーカーが出展しており、意気軒昂に日本に追いつき、追い越せの勢いを見せていた。結局、日本の液晶技術は彼らに見事に学習され、自らのものとなり、今やお家芸的にやられてしまっている。
 これは米国の電気製品が圧倒的に安価の日本製に駆逐されてきたパターンと一緒だ。安い労働力を背景に、開発コストの掛からない、2番手商品を作り、安価に販売してシェアを取る。途上国が先進国に食い込んでいく方程式のような戦略だ。
 米国はソ連崩壊後、「今後の敵は、日本」と定め、日本のQCDを研究してヤングレポートを作成し、日本の弱点を徹底的につく戦略を組み立てた。
 コンピュータのキーデバイスである半導体に協定をつくり、安価なDRAMを阻止して、米国の粗悪な半導体を買わせた。そして、コンピュータの性能をハードでなくソフトウェアの性能に切り変えていった。
 日本の得意なリバースエンジニアに対抗して、ソフトウェアによる“ブラックボックス化”で巻き返しを図ったのだ。その結果がいま、ソフトウェア(ICT財)の輸入が3.9兆円と大幅な輸入超過となっている。

 80年代に日本が開発した商品は、太陽光発電、DVDなど数々の商品がもはや中国製、韓国製に駆逐されてしまっている。技術は先行しても、市場がとれない悪循環が続いており、液晶のその1つとなった。
 先日、半導体産業の復活をテーマに取材してきた中で、半導体のリゾグラフィでなくてはならないエキシマレーザーで世界シェア50%のギガフォトンの浦中会長にインタビューを行った。
 半導体生産の肝であるエキシマレーザーは、古いアナログ技術なのだそうだ。「日本が唯一勝てるのはアナログ技術にある。半導体製造装置が日本のシェが高いのは、洗浄やフォトレジスト、材料などのアナログ技術にある」という。
 そのため、同社では製造機械は自ら作り、工場はブラックボックス。特許はライバルのもう1社とほとんどをカバーしており、他の追随を許さない位置にいるとのこと。
 シャープの失敗を見るにつけ、トップ企業のおごりが見え隠れする。亀山工場には見学者が引きも切らず、製造機械は外販のものを使用、情報はダダ洩れ。これでは「真似してください」と言わんばかりの体制であった。
 世界の製造業の流れは、ハードからその性能を最高に引き出すソフトウェア制御の時代に入ってきている。また、部品やソフトウェアのトレーサビリティなどが求められてきている。
 その中で、日本のものづくり白書(2023年版)では、製造業のデジタル競争力ランキングの総合順位が過去最低の29位(63か国中)となった。「ビッグデータの活用と分析」、「企業の敏捷性」が最下位だったそうだ。

 日本のものづくりを支えているのが多くは中堅・中小企業だ。目端の効く大企業は長引く日本の不況から工場を海外展開してしまい、残された中小企業は設備投資もままならず、古い設備をだまし、だまし使いつづけてデジタル化が出来ない状態にある。
 ここは繊維産業に行ったような大幅な構図改善事業行うべきだ。設備を最新のものに変えていかないと日本のものづくり産業の衰退がとまらなくなる。GDPの7割を占める国際競争力のないサービス産業だけでは、日本人が食べてはいけなくなる。
 まだ競争力のあるうちに製造業のテコ入れをしていかないとまた、日本は世界へ出稼ぎにいく国に成り下がってしまう。シャープの衰退を見るにつけ、米国のRCAやコダックの例がデジャブのように見えてくる。

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