「揺れる時代」を乗り切る処方箋―ナシーム・タレブの著書に見る:山下郁雄
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写真:「「不確実性の大家」の主要著書
株式市場が揺れ動いている。8月5日に日経平均の下落幅がブラックマンデーを抜いて過去最高(下落率では2番目)を記録したかと思うと、翌6日には上昇幅がレコード更新(上昇率では4番目)と乱高下の極み。先行きや如何…。強気派、弱気派、中立派の見解が入り乱れ、誰も明日の景色が分からない。大揺れのマーケットと同様、日本列島の大地にも激震が走り、南海トラフ大地震の懸念が強まっている。相場と地震。二つに通底する「不確実性」をキーワードに、「揺れる時代の処方箋」を〝不確実性の大家〟の書物から導き出してみる。
不確実性の大家=ナシーム・タレブは、ブラックマンデーで名を挙げた元トレーダーの作家であり、学者・研究者でもある。タレブの代名詞となる「ブラック・スワン(黒い白鳥)」(日本語版は2009年刊)とは①まずあり得ない②予測できない③非常に強い衝撃を与える-事象を意味する。『とても稀な事象の確率は計算できない。でも、そういう事象が起こった時に私たちに及ぶ影響なら、かなり簡単に見極められる』『意志決定をする時は、確率よりも影響の方に焦点を当てるべきなのだ。不確実性の本質はそこにある』
■戦略は可能な限り超保守的かつ超積極的に
そのうえで『ほとんどのリスク測度に欠陥があると認めるなら、とるべき戦略は、可能な限り超保守的かつ超積極的になることだ。お金の一部、例えば85%から90%をものすごく安全な資産に投資する。残りの10%から15%はものすごく投機的な賭けに投じる」と“両極端戦略”を勧める。同書では「予測をする専門家」を切って捨てている。『単純に言って、動くもの、したがって知識が必要なものには普通専門家はいない』『経済の予測をする連中や社会科学系の予想屋の言うことを真に受けてはいけない。あいつらは芸人なのだ』
「不確実な世界を生き延びる唯一の考え方」を副題とする「反脆弱性」(同2017年刊)では、「脆さ」の逆の「反脆さ」という概念が如何に重要かを力説している。『ある日私は突然、脆さを「変動性を好まないもの」と表現できることに気づいた。変動性を好まないものはみんな、ストレス、害、混沌、事件、無秩序、予測不能な影響、不確実性そして一番大事なことは、時の経過を嫌うということだ』『反脆さはこの脆さの定義からいわば自然と生まれる。反脆さは変動性などを好む。時の経過も歓迎だ』
■先延ばしは知恵の産物
同書では反脆さ、反脆弱性の仕組みを理解することの意義を『不確実な環境のもとで、予測に頼らずに意志決定を下すための体系的で包括的な指針を築くことができる』『システムに害をもたらす事象の発生を予測するよりも、システムが脆いかどうかを見分ける方がずっとラクだ。脆さは測れるがリスクは測れない』と説明。併せて、『ほとんどの人が理解していないことだが、先延ばしは物事を自然の成り行きに任せ、反脆さを働かせる、人間の本能的な防衛手段なのだ。これは、何かの生態的で自然主義的な知恵から生まれるもので、必ずしも悪いものではない』と先延ばしの効用も説く。
帯文が「不確実で予測不可能な世界で私たちがとるべき生き方とは」の「身銭を切れ」(同2019年刊)では、『本書の第1のテーマはたわごとを見抜き、ふるい分けることだ。要するに、理論と実践、うわべだけの知識と本物の知識、学問の世界と実世界との違いを理解するということだ』と記述。『人間には2種類の脳がある。一つは身銭を切っている時の脳。もう一つは切っていない時の脳。身銭を切ると、退屈な物事が急に退屈でなくなることがある』『私は身銭を切っていないとたいてい愚鈍になる。リスクを背負ったとたん、私の第二の脳が目を覚まし、複雑に並んだ確率を難なく分析し解読できるようになった』と実体験を披露し、『身銭を切らずして得るものなし』と結んでいる。
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