政治改革は大胆に、経済対策は丁寧に:大澤賢
TOP写真は第216回国会開会式(11月29日)
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自民・公明与党が過半数割れとなった衆院選(10/27)後の特別国会で、石破茂自民党総裁は決選投票の結果、第103代首相に選出された(11/11)。第2次石破内閣は国民の怒りをかった同党の裏金事件など「政治とカネ」問題の解決に向け、政治改革に全力で取り組まなければならない。野党の協力が欠かせない「過半数割れ内閣」は、大胆な決断が必要だ。
また今月28日召集の臨時国会(会期12月21日まで)では、政府経済対策の裏付けとなる今年度の補正予算も重要な審議テーマとなる。物価高対策や能登半島災害復旧費用などが盛り込まれる見通しだが、石破首相は選挙期間中「23年度補正の約13兆円を上回る」と語っていた。景気と財政状況をよく見て、規模と中身は丁寧に組み立てることが大切だ。
●臨時国会で試される「熟議」
石破首相は就任直後の記者会見で、基本姿勢は「できるだけ多くの党の理解を得て、丁寧に謙虚に取り組む」と表明。政治改革では調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開と残金返還、政策活動費の廃止を含めた検討、政治資金収支報告書のデータベース構築と政治資金をめぐる第三者機関の設置など、早急に結論を得ると語った。与党側は、政策活動費の廃止や第三者機関の設置などで切り抜けたいところだろう。
だが、野党側は強硬だ。野党第1党となった立憲民主党は、これまで自民独占だった主要委員会の委員長ポストを獲得した。とりわけ国会審議の花形・予算委員会の委員長に、立憲民主党の安住淳氏が就任したが、野党委員長は30年ぶりのことだ。
政治改革で難航必至なのが「企業・団体献金の禁止」。首相も消極的で、これは「八幡製鉄政治献金事件」最高裁判決をもとに、「企業・団体からの寄付は禁じられていない」と判断しているためだ。自民党には年間70億円(2022年)超の献金がある。同党は禁止の代わりに、献金の上限規制や個人献金への転換を誘導する税制の導入などを提案する構え。
これに対して野党側は「企業・団体献金こそ腐敗金権政治の温床であり、廃止に向け野党各党を含め呼び掛けていく」(小川淳也立憲民主党幹事長)と主張。すでに日本維新の会、れいわ新選組、共産党が賛成を表明している。国民民主党は「全野党が一致するなら賛成」(玉木雄一郎代表)としているが、本音は「献金の上限規制」ではと見られている。
このほか裏金事件の発端となった「政治資金パーティーの禁止」については、自民・公明両党は明確に反対。立憲民主党と日本維新の会、共産党は「企業・団体の購入禁止」、国民民主党は「外国人の購入禁止」などとしている。
いずれにせよ最大の焦点は政治改革であり、自民党が政治資金規正法の再改正などに積極的に取り組まなければ、来年夏の参院選でも厳しい審判を受けることになろう。同時に立憲民主党も、野党第1党として国会審議での熟議を実現する責任がある。
●「103万円の壁」は来年度税制改正で
もう一つの焦点は、今年度の補正予算の審議である。政府は22日に「総合経済対策」を閣議決定。低所得者への給付金や物価高対策(電気・ガス料金の負担軽減や、ガソリン価格への補助の継続など)のほか、能登半島地震・大水害復旧対策、そして国民民主党が選挙中に公約した「年収103万円の壁」の見直しなどを盛り込んだ。
このうち「103万円の壁」は、給与所得でこれ以上の年収があると所得税がかかるため、働き控えにつながり人手不足の一因になっている、とするものだ。国民民主党は選挙期間中、年収ラインを178万円に引き上げることを求めていた。
ただ、パート・アルバイトの主婦や学生たちが「手取り減少」で困っているとする意見には、「実際に104万円になっても増加した1万円の所得税率5%、500円の納税で済む。パート主婦の場合、年収150万円までは夫の扶養控除(配偶者特別控除)が受けられるから、いわば誤解で、意識の壁」との声もある(近藤絢子東京大学教授=11/12付朝日新聞)。
また、年収106万円以上になると厚生年金、健康保険の支払いが発生する(従業員51人以上の企業)106万円の壁や、年収130万円以上では国民年金の保険料負担や国民健康保険の支払いが始まる(従業員50人以下の企業)130万円の壁もある。立憲民主党はこのうち130万円の壁の是正を要求している。
「年収103万円の壁」見直しは25年度税制改正作業の中で協議することが、自民・公明・国民民主3党間で合意した(11/20)。これとは別に、政府部内では厚生年金について、パートなど短時間労働者の加入要件で、年収要件(106万円以上、従業員51人以上)を撤廃する方向で検討しているとの報道もある(11/8東京新聞)
世界を見ると長期化するウクライナ戦争とイスラエルの戦線拡大があり、これに米国第一を唱えるトランプ米大統領の就任(来年1月)という不安定材料が加わる。日本経済は、高めの賃上げがあっても物価上昇で実質賃金が減少し消費は弱いままなど、力強さに欠ける。構造問題として人口減少と国・地方合わせて1300兆円を超す債務(借金)の問題があり、基礎体力は衰退し続けている。
政府の経済対策ではいつも「デフレからの完全脱却」を掲げるが、すでにデフレからは抜け出しているはずだ。経済あっての財政―とは政界の決まり文句で、それはそれで正しい。だが財政事情を考えれば補正・本予算とも適正規模にとどめるのが政権の責任ではないか。
支持率低迷が続く石破内閣だが、この難局をどう乗り切っていくか、注目したい。