「アジアの若者を育てる」渥美国際交流財団:岩辺卓浩
TOP写真:明石大会会長から表彰される奨学生(8月11日、クラウン・プラザ・バンコク)
今年8月、東京より涼しいバンコクで開かれたシンポジウム「第7回アジア未来会議」で、高齢の元外交官が大勢の若者に囲まれ、写真撮影をせがまれていた。
明石康氏(93)。国連事務次長やカンボジア暫定統治機構(UNTAC)特別代表として紛争地域を駆け巡った外交官だが、30年も昔の話でメディアに登場する機会は少ない。しかし、緊張感が強まるアジアで、国際関係を学ぶ若者らにとっては「レジェンド」だ。明石氏と3日間も行動を共にする中で、「こんな『温かい地下水の流れ』を大事にしたいね」と深夜まで若者たちと話し込む姿に驚かされた。
■顔の見える奨学支援
その明石氏が顧問を務め、アジアを中心とした留学生を支援する「公益財団法人渥美国際交流財団」(渥美直紀理事長)は今春、設立30周年を迎えた。
初代理事長は渥美伊都子さん(96)。財界に詳しい読者はピンとくるかもしれないが、ゼネコン鹿島「中興の祖」と呼ばれた鹿島守之助氏の長女だ。社長を継いだ渥美健夫氏が1993年に亡くなった際、「国際理解を深めるには若者が世界を知ること」との遺志を引き継ぎ設立した。
伊都子さんは、博士号を取得して世界各地の大学で教鞭をとる元奨学生たちを「子ども」、彼らが育てる学生を「孫」と呼ぶ。奨学金(2024年度は月額25万円、募集16人)を渡す時に、学業の相談に乗ったり食事会をしたりするという家族的なスタイルが評価されている。
奨学生は近隣国で複雑な歴史を抱える中国や韓国、台湾出身が多いが、インドやモンゴルなど50以上の国・地域から350人を超え、南基正(ナム・キジョン)ソウル大学日本研究所長やデマイオ・シルバーナ(Silvana De Maio)イタリア文化会館館長(東京)らが、財団の「子ども」として活躍している。
■鹿島守之助氏のDNA
この財団は「大企業の慈善事業じゃないの」と言われるが、成り立ちが異なり、経営とは一線を画している。基本財産は保有する鹿島の株式と社債で、低配当だった時は寄付集めに奔走した。
鹿島守之助氏は欧州に駐在した元外交官。ヨーロッパ共同体(EC)の理念を提唱したオーストリアの思想家クーデンホーフ伯爵(妻は日本人の光子さん)に憧れるインテリで、「パン・アジア」の実現が自らの役割と考えていた。日本総合研究所会長の寺島実郎氏が北海道の高校時代、「守之助氏の所有するクーデンホーフの本を貸してほしい」と手紙を書いたら、新刊を送ってもらって感動したというエピソードがあるように、向学心に燃える若者を応援するというDNAが財団に蓄積されている。
■「公用語」は日本語
特筆されるのは、財団での「公用語」は日本語ということ。設立の狙いが「日本留学者のネットワーク作り」でもあり、交流会では各国からの奨学生が流ちょうな日本語で話し合い、議論する。
奨学生の日本語エッセイを掲載するメールマガジン「SGRAかわらばん」も1031号に達しており、彼らが書く立派な文章を、社内で若い記者に見せて何度驚かれたことだろう。
■キーワードは「地球市民」
2000年からは、帰国した奨学生を中心に「関口グローバル研究会」(SGRA)がスタート。2011年の東日本大震災をきっかけに始めた福島県飯館村での「ふくしまスタディツアー」は、近隣国と処理水の海洋放出でもめる現状を見通したような取り組みだった。
30年間の国際的な活動は「日韓アジア未来フォーラム」21回、「チャイナフォーラム」17回、「日台アジア未来フォーラム」10回など数限りない。10月には今年3回目の「パレスチナ問題研究会」を都内で開催する。
財団が掲げるキーワードに「地球市民(global citizenship)」がある。設立者の平和への思いや、90歳を超えて海外を飛び回る明石氏を少しでも応援していきたい。
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