株高・円安、動き出した金融正常化=2024年の日本経済を振り返る:大澤賢

 2024年の日本経済は史上最高値を付けた株価(東証日経平均株価)、内外金利差と国力低下を反映した円安(外国為替相場)、大幅賃上げ春闘と物価上昇を機に踏み切った日銀の金融政策大転換など、話題の多い年となった。ベテラン記者が毎週月曜日付で掲載しているブログ『経済記者シニアの眼』を通じて、2024(令和6)年を振り返る。
 元旦の能登半島大地震(最大震度7)と、翌日の羽田空港での日航機・海上保安庁機の衝突事故は、多くの人に新年の多難さを予想させた。とくに能登半島大地震は、被災者・被災企業への支援の不十分さ、道路や水道・電気、通信と言ったインフラ復旧の遅れなど、国・自治体による現状の復旧・復興策に不備があることを浮き彫りにした。

●災害後進国の汚名返上の一歩に
 『体育館が避難所? クレージー! 後進国を露呈する災害大国・日本の被災者ケアの現状』1/29付高橋成知氏のブログは、日本の支援策の貧しさを痛烈に指摘した。2012年のイタリア北部地震では、被災家族ごとのテントや温かい食事、移動式シャワーやトイレが迅速に提供されたという。日本ではいつも、体育館で被災者が冷たい床に寝ころんでいる。
 このブログがきっかけとなり?石破茂首相は11月1日、内閣官房に「防災庁設置準備室」を立ち上げた。政府の防災業務の企画立案機能を強化して「平時からの備え」と「人命優先の防災立国」を確立していくという。政府は2026年度中に正式発足させる方針。「復興庁」(2012/2発足)とともに、被災者本位の防災対策・被災者支援策の充実を期待したい。

●政治は一転、野党主導の展開に
 国内政治は波乱に満ちた1年だった。自民党派閥の裏金事件の後始末に追われ、通常国会終盤での政治資金規正法の改正(6月)と岸田文雄首相の退陣表明(8月)、自民党総裁選挙(9月)で石破茂総裁の誕生(10月)。いきなりの衆院解散と選挙(10/27)で自民・公明両党の過半数割れ。そして第2次石破内閣が発足(11/11)した。与野党間の力関係が逆転し、臨時国会では補正予算の修正や政治資金規正法の再改正(12/17)など、野党ペースの展開となった。
 政治の混乱は世界的だが、日本の与党過半数割れは単に裏金事件の追及だけでなく、外交・安全保障政策など重要な国政を閣議決定で済ませるという、これまでの自民党“強権的手法”が国民から厳しく批判された結果と見ることができる。
 政治の一連の動きは『政治改革政権の登場を望む』6/24付筆者小生など、毎月末のブログ『不祥事・トピックス』コメント欄でも、メンバー各氏が逐一報告した。

●物価高対策と「デフレ脱却」の矛盾
 国内経済は、政府の経済見通し(24年度実質GDP成長率1・6%程度、物価上昇率3% 程度)をなぞるように緩やかに伸びているもよう。気になるのが物価高と低賃金(実質賃金の減少)である。このままでは消費や投資は増えず、経済活動(景気)に弾みはつかない。
 物価は一時1ドル=160円台を付けた記録的円安などを背景に、高めで推移した。総務省によると11月の消費者物価指数(総合、2020年=100)は、前年同月比2・7%の上昇で39か月連続のアップとなった。22年4月以降は日銀が目指す「2%」以上が続いている。すでにデフレ(物価の持続的下落)ではないことは明白だ。
 政府は総合経済対策(11/22閣議決定)で、一番の柱に「物価高対策」を取り上げ、今年も電気・ガス料金とガソリン価格への補助を決めた。それにもかかわらず、もう一つの目標として前年同様「デフレ脱却」を掲げている。こんな矛盾表現を残しているのは、「デフレ」がいつでも財政出動できる余地を残すための“政治用語”になったため、とされる。
 株価は大発会(1/4=3万3288円)から急伸、2月22日に3万9098円とバブル最高値(3万8915円)を超えた後、3月4日に4万0109円と初めて4万円台に乗せ、7月11日に4万2224円と最高値を付けた。現在は3万9千円程度。年末大納会(12/30)の株価が注目される。
 一方、都心部の住宅価格は異常な高騰を続けている。
 『住宅価格の高騰はいつまで続くのか? アフォーダブルハウジングから考える』6/10付千葉利宏氏のブログは、都内の新築マンション価格が高騰している現状を警告、事業者に「手ごろな価格の住宅」実現を訴えている。不動産経済研究所によると今年度上期の23区新築マンション平均価格は1億1051万円。もはや中間層には手の届かない水準だ。

●特筆される「異次元緩和」終了
 日銀は3月19日の金融政策決定会合で、11年間続けた大規模金融緩和策の終了を決めた。マイナス金利を解除し、17年ぶりに政策金利を0~0・1%に引き上げた。植田和男総裁は「異次元緩和」の役割は終わり、今後は「普通の金融政策を行っていく」と表明した。
 また7月31日にも追加利上げし、政策金利を0・25%へ引き上げた。ところが利上げ直後に株価は3営業日(8/1~5)で7600円超下げる記録的大暴落となり、さらに翌8/6は逆に3217円の史上最大の上げ幅とジェットコースター相場となった。このため日銀は「当面利上げしない」と表明。金融政策の正常化は、株価や多くの課題を抱えての出発となった。
 賃金は、今春闘で大手企業の賃上げ回答が33年ぶりに5%に乗せた(連合の最終集計)。経団連、厚労省調査でも同様の結果が出た。ただし中小企業のそれは3%台半ばで、これは大手との賃金格差を広げる形となった。また最低賃金(時給)も大幅なアップが実現した。
 だが肝心な実質賃金は落ち込みが続いている。厚労省の9月の毎月勤労統計調査によると、同省調査の消費者物価指数は2・9%の上昇で、実質0・1%のマイナスと2か月連続で落ち込んだ。実質賃金は6、7月がプラスに転じたものの、すぐに息切れ。この傾向は10月にも見られ、物価抑制策があったが実質賃金はゼロ%、横ばいにとどまった。

●SNS(交流サイト)が変えた選挙
 今年の最大の話題は、SNSが政治分野とくに選挙で猛威を振るったことだろう。 『衆院選投票率は53・8%、戦後3番目の低さ・相変わらずIT/デジタルに言及なしのガラパゴス』11/25付佃均氏のブログは、低投票率の背景を分析するとともに、「デジタル全総」をどう推進するのかなど、政党・政治家(候補者)は真剣に向き合うべきことを指摘した。 
 兵庫県知事選挙(11/17)では、SNSや動画(YouTube)でフェイク(嘘)情報や個人攻撃・誹謗中傷が広がり、予想外の結果となった。既成政党やメディアなど既得権益層への反発との声もあるが、重要なのは国民の情報リテラシー(理解力)を高めること。同時に、圧倒的な市場支配力を持つ巨大プラットフォーム(配信基盤)事業者に対する規制も必要となろう。
 既存メディアと世論調査の“失敗”では、『トランプ当選をどうとらえる 新聞とネットで際立つ好対照ぶり』11/11付け山下郁夫氏が面白い。また膨大な公開情報を収集・分析して報道する手法を取り上げた『今年度新聞協会賞を受賞したOSINTとはなにか』10/7付和泉田守氏は、メディアにおける調査報道の大切さを解説している。
 SNSやネットニュースは今後も注目されるだろう。本来は人々の交流や理解を深めるためのツールだが、国家や社会を分断させる危険な存在にならないか心配である。

いいなと思ったら応援しよう!