3月期決算/マンパワー型受託サービス112社 「低位安定」からの脱却なるか
株式を公開している3月期決算ITサービス関連企業の通期業績発表が、5月20日に出そろった。新型コロナ感染症対策に伴う経済活動の縮小にもかかわらず、法人向け、個人向けとも増収増益だった。なかでもマンパワー依存型ITサービス業112社の業績は、売上高が8兆2,143億円、営業利益利率が10.8%、純利益率が7.5%となっており、IT記者会が記録を取り始めた2001年以来の最高値を達成した。経済産業省が『DXレポート』で「低位安定」と断じた状況から脱することができただろうか。
マンパワー依存型受託サービスの高度化が不可欠
非上場企業を含めると、マンパワー依存型受託ITサービス業の総就業者は200万人と推定される。ユーザー3割:外部ITベンダー7割というIT系エンジニアの偏在を踏まえれば、社会・経済のIT利活用を進めるには。受託ITサービス業の高度化が大きな課題といっていい。
マンパワー依存型受託ITサービス業の特性は、人に属した技術の提供=役務・労務提供という点にある。取引きは「1人当たり月額」(人月単価)をベースに行われるため、就業者を増やさないと事業規模が拡大せず、廉価販売に陥りやすい。また収入が決まっているので、企業が利益を増やそうとすれば、新規投資や教育研修費、就業者の給与や外注先への対価を抑制することになりかねない。
要求定義があいまいなまま丸投げでシステム構築を発注するユーザー、技術研修をないがしろに多重下請け構造を収益源として受注するITベンダーの関係が、『DXレポート』のいう「低位安定」ということになる。
本調査が主眼とするのは、受託ITサービス業が過去20年、指摘され続けている「茹でガエル」「3K」から、DX/デジタル時代を牽引する「ユーザーのパートナーたるIT専門家集団」に転換できるかだ。そこで過去10年の推移から、質的な転換が起こっているか否か、変化の兆候の有無を含めてデータを分析する。
まずは2022年3月期の業績から。
売上高、営利率、純利率は過去最高を記録
マンパワー依存型ITサービス業112社の内訳は
・BPO/運用管理受託サービス:20社
・制御系プログラム開発(含要員派遣):10社
・業務系システム開発(含要員派遣):58社
・計算処理/複合サービス:24社
となっている。
「マンパワー依存型」という表現に抵抗感を覚える向きがあるかもしれない。単純なIT要員派遣業はもちろん、「システム企画・設計からデータ入力・運用管理まで一貫して受託している」と主張する企業も、派遣要員を受け入れて複合サービスが成り立っているという意味で「マンパワー依存型」に編入した。いわゆる「受託型」「人/月型」 といえば分かりが早い。
「BPO/運用管理受託」にはコールセンター、ヘルプデスク、サポートサービス、電子機器操作受託などが含まれる。また「計算処理/複合サービス」は受託計算、ソフト開発、機器販売、システム運用管理などITサービスの百貨店的な存在であるととも、システム構築案件の1次請けないし準元請けの役割を果たす企業とした。
業績を箇条書きにする(△はプラス、▼はマイナス、Pはポイント)。
マンパワー依存型受託サービス112社
●総売上高:8兆2143億41百万円
●前年同期比△6.8%
●営業利益: 8853億94百万円 △27.1%
●営業利益率:10.8%(+1.7P)
●経常利益: 9100億19百万円 △33.3%
●純 利 益: 6161億89百万円 △36.6%
●純利益率:7.5%(+1.6P)
新型コロナウイルス感染症対策で経済活動が縮小しているなかで、業務系システム開発業務を中心に業績を伸ばした。売上高、営業利益率、純利益率とも、IT記者会が調査を開始した2001年以来の最高値となる。
ちなみに集計企業が初めて100社を超えた2002年3月期(2001年度)の売上高は4兆9,110億19百万円、 営業利益率は5.7%、順利益率は2.3%だった。
業務カテゴリー別の業績は以下のようだった。
◆BPO/運用管理受託サービス 20社
●売 上 高:1兆0881億04百万円 △1.7%
●営業利益: 874億84百万円 △10.1%
●営業利益率:8.0%(+0.7P)
●経常利益: 911億38百万円 △14.2%
●純 利 益: 620億10百万円 △24.3%増
●純利益率:5.7%(+1.0P)
◆制御系プログラム開発 10社
●売 上 高:1090億44百万円 △6.5%
●営業利益: 113億26百万円 △30.7%
●営業利益率:10.4%(+1.9P)
●経常利益: 118億57百万円 △25.4%
●純 利 益: 78億71百万円 △45.5%
●純利益率:7.2%(+1.9P)
◆業務系システム開発 58社
●売 上 高:1兆0802億43百万円 △7.9%
●営業利益: 1,144億19百万円 △22.9%
●営業利益率:10.6%(+1.3P)
●経常利益: 1177億12百万円 △22.6%
●純 利 益: 791億17百万円 △27.9%
●純利益率:7.2%(+1.9P)
◆計算処理/複合サービス 24社
●売 上 高:5兆9369億50百万円 △7.6%
●営業利益: 6721億65百万円 △30.4%
●営業利益率:11.3%(+2.0P)
●経常利益: 6,893億12百万円 △38.6%
●純 利 益: 4,671億82百万円 △38.9%
●純利益率:7.9%(+1.8P)