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パリ五輪、株価乱高下、南海トラフ、長崎原爆忌、首相退陣表明……ツッコミどころ満載の8月 だけど記憶に残るのは酷暑・猛暑かな?:佃均

トップ写真「Game is not over:PARIS2024パラリンピック公式ページ」

  例年、7月後半から8月前半にかけては夏越・慰霊の催事が重なります。それだけでも話題は多いのに、今年はちょっと違いました。パリ五輪(7月26~8月11日)、株価の乱高下(1~6日)、南海トラフ地震臨時情報(8日)、長崎原爆忌に米欧G7駐日大使欠席(9日)、台風5号・7号の直撃(12、16日)。
 何を取り上げようか……。考えあぐねていたところに、岸田首相の退陣表明(14日)、大阪など24万戸停電(15日)というニュースが飛び込んできました。ですがいずれも筆者は門外漢。
 ならば――と開き直って、一視聴者としてパリ五輪の雑感・余談でまとめます。

■Team Japanは予想を超える健闘
 筆者にとってパリ五輪はほとんどBGM、たまにテレビ画面をチラ見する程度でした。興味はないけれど、情報だけは仕入れておこうという不埒な視聴者です。ただ「毎日が日曜日」なので、接する時間は一般の勤め人より多かったと思います。
 紹介される悲喜交々のドラマのなかで、記憶に残ったのはエッフェル塔特設舞台でセリーヌ・ディオンさんが歌い上げた「愛の讃歌」でした。既存施設をフルに活用したスモール&コンパクトのコンセプトやセーヌ川の水質問題は、ついつい3年前の東京2020と比べてしまいます。事前に心配されたテロがなかったのは何よりでした。
 Team Japan(日本選手団)が獲得したメダルは金20、銀12、銅13の計45個。東京2020の58個には及ばないものの、海外開催の五輪では金メダル数、メダル総数とも最多、参加国別で第3位(東京2020は5位、リオデジャネイロ2016は7位)となりました。金メダルはGDPベースだと16、開幕前は17と予測されていたので、まさかの敗退や疑惑の判定はありながら、Team Japanは頑張ったと言えるでしょう。
 しかしこれを以って「日本スポーツの実力が上がった」とするのは早計なようです。シドニー2000以後、出場者数に占める入賞者(8位以内)の割合は57~58%で推移していて、大きな変動はありません。ロシアとベラルーシの欠場を考慮すると手放しで喜ぶことはできないでしょう。

■主流は「クラウド」&「サービス」
 もう一つ確認しておきたいのは、大会を支えるITです。
 競技結果が電算化されたのは、1960年2月の冬季スコーバレー大会(米カリフォルニア州)が最初でした。使われたのは「IBM RAMAC350」というマシンで、パンチカードと真空管の電気式計算機でした。大きさが9m×15m、重さが1トン以上というのは驚きですが、磁気ディスク装置を初めて搭載し、ランダムアクセスとリアルタイム記録が可能でした。
 RAMACは「Random Access Method of Accounting and Control」に由来しています。直訳が「会計と制御のランダムアクセス手法」であるように、PCS(Punch Card System:命名者は日本ワットソン会計機械勤務当時の安藤馨氏)から電子計算機への橋渡し、オンライン処理への道を準備したマシンです。
 初めてオンライン処理を実施したのは、1964年10月の東京大会でした。詳しい経緯は拙著「オンライン事始め」、「時を計る」を参照してください。
 その関連で筆者などはBull、Olivete、Siemensといった懐かしい名前を思い出すのですが、今般はAirbnb、Alibaba、Atos、Deloitte、Intel、Cisco、DXC等々、ネット/クラウド系の名が並んでいます。クラウド(グーグル)とAI(グーグル、インテル)が活躍し、どんなコンピュータ(ハードウェア)かは話題になりません。この60年間で、ITの主流は完全に「クラウド&サービス」に転換したことが分かります。

■望む答えだけを聞き続ける正義と分断
 「ITの民主化」の陰で分断が進んでいます。
 まさかの敗退や疑惑の判定、LGBTQなどに対するSNS上の誹謗中傷・罵詈雑言は見苦しく、誰もハッピーになることはありません。YouTuber系女性タレントの“失言”が、取り返しがつかない場外乱闘に発展したのがいい例です。
 意見交換では、相手をコテンパンに打ちのめすのは禁じ手です。相違点の確認と情報の共有がたいせつなのですが、SNSは匿名で一方的、異論反論の余地がありません。言い出しっぺは正論を述べているつもり、賛同者は「いいね」をクリックするだけ。
 まさに「参加することに意義がある」「みんなで渡れば恐くない」なので、昼夜を問わない絨毯爆撃が展開されます。攻撃されるのは個人ですから堪ったものではありません。良識が通じず、プラットフォーマーが放置し続けるなら、法的措置もやむを得ないでしょう。
 ある事象を甲と見るか乙とするか、その賛否・善悪・是非は人によって異なり、数値さえ主観と感情で解釈されます。それぞれに「正義」「体面」があり、「人はみな望む答えだけを 聞けるまで尋ね続ける」(♫永遠のウソをついてくれ)ために、分断の溝は容易に埋まりません。
 パリ2024では「なぜロシア、ベラルーシはNGでイスラエルはOKなのか」という問題が残りました。長崎原爆忌はイスラエルの不招致に米欧6カ国の駐日大使が欠席、過去と現在の戦争が影を落としました。米国中心の“平和”を「正義」とするのは新しい分断を生むのではないか、とても気になるところです。

■オジサンは「汗と涙の感動」が大好物
 さて、今回初登場のブレイキン(breakin')について、五輪競技としてどうなのか、という声があるようです。スケートボード、ボルダリングなど、いわゆるアーバン系に共通するのは、「年齢制限は?」「シニアの部は?」「エキシビションじゃん」という見方です。
 とはいえ、メダリストの首相表敬訪問(国威発揚が目的ではないはずですが)でスポーツ庁の室伏広治長官がAMI(湯浅亜美)選手に「踊って見せろ」と促したのは、同じオリンピアンとして失礼な話でした。前述の“本音”と首相への阿りが露見したかたちです。
 アーバン系は、パフォーマーとサポーターが国や人種を超えてわくわくを共有する。高度なトリック(技)をサラッとこなすのがカッコいい、「楽しければいいじゃん」が正直なところ。表敬訪問のような儀式は似合いませんし、官邸はトリックの場ではありません。場をわきまえなかったのは室伏長官の方で、きっちり断ったAMI選手は立派でした。
 日本ではスポーツに「汗と涙の感動」を求めがちです。特にオジサンはねちっこくて濃い味(苛烈な練習:修行に耐え、最後に栄光)が大好物。対して若者はサラッとカッコいい薄味が好き。前者は組織+前例重視で演者と観客、後者は個人+挑戦重視で一緒にプレーする仲間。テレビメディアはお得意様向けに「感動」を乱発し、若い世代はネットでアーバン系に熱中する。パリ2024はレガシー/アーバンの分断五輪だった、という評価になるかもしれません。
 ――等々、あれこれ書き連ねておきながら何ですが、2024年の8月、記憶に残るのは酷暑・猛暑じゃないか、と思ったりしているわけです。

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