掃除が果たす大切な役割とは?:千葉利宏
家事のなかでやりたくない仕事と言えば、トイレや風呂などの「掃除」だろう。インターネットで調べると「一番やりたくない家事」を調査した記事がいくつも掲載されており、結果はだいたいトイレや風呂の掃除がトップを争っている。
わが家は共働き世帯だったので、家事は妻と私が分担してきたが、掃除は私が行うことが多かった。室内の掃除は妻もやっているが、庭の草むしりや庭木の剪定などの外構廻りと、ゴミや不用品などを集めて決められた日にゴミ出しするのは私の役目である。
私自身、それほどキレイ好きというわけではない。それでも掃除に精を出すのは「掃除は住宅メンテナンスの基本」と考えているからだ。家事は大きく分けて①料理、②掃除、③洗濯、④育児・介護、⑤家計管理、⑥収納・整理整頓、⑦生活環境(家など)の補修・調整、⑧交流(町内会、学校など)・季節行事―の8種類に分類されるが、②と⑦はセットで行うところに意味がある。
■早期発見は家も人間の寿命も長くする
木造一戸建てのわが家は、今年で築25年を迎えた。設計したのは大学の同期だった建築家の神成健氏。当時は、大手建築設計事務所の日建設計に在籍し、安田幸一氏(東京工業大学教授)と箱根のポーラ美術館の設計に携わっていた。私が「自宅を建てるのに腕の良い大工を知らないか?」と相談すると、「紹介するから自分に設計させろ!」と言い出して自宅の設計を任せることになった。
施工は東京・文京区の馬場工務店。大学時代の同窓に、東京駅や日本銀行などを設計した明治の大建築家・辰野金吾の直系子孫がいて辰野家出入りの馬場工務店を紹介してもらったらしい。残念ながら15年ほど前に馬場工務店は倒産したと聞いている。
家づくりには、私自身も設計段階から係わり、施工現場に何度も足を運んだ。当然、自宅のメンテナンスは自分の役割だと認識している。
掃除のときには、建物の隅々を注意して見て回ることになる。日常的に注意して建物を見ていると、ちょっとした不具合や異変に気が付きやすい。気が付けば原因を探って必要な対策を打つことができる。かなり悪い状態になってから修繕すれば、工事が大がかりになって、費用も高くなる。まだ症状が軽いうちに修繕すれば、結果的に費用が安く済むし、建物は長持ちする。
このような考え方は、人間の健康管理と同じだ。症状が軽いうちに治療すれば短期間で治癒できる病気も、症状が重くなってからでは場合によって手の施しようがなくなる。定期的に健康診断を行うのも、早期に異常を発見して健康な寿命を長くするため。住宅メーカーや工務店などでも、住宅の定期点検サービスを実施しているが、日常生活の中で異変に気が付けば、簡単に自分で補修することもできる。
■家でも建築現場でも掃除機をかけていた私の父
先日も、キッチンで食器洗いをしているときに、水道の蛇口の調子がおかしくなっていることに気が付いた。水がバシャバシャと音を立てて出るようになったので、ライトを当てて見ると、蛇口部分に取り付けている泡沫キャップが壊れていた。何かをぶつけた時に壊れてしまったのだろう。
コロナ禍で取材がやりにくかった頃に、東洋経済オンラインで、洗面所の混合水栓をDIYで取り換えた顛末を記事にしたことがあった。 ■コロナ禍の「自宅DIY」に立ちはだかる意外な壁―求められる「住宅履歴」の適切なメンテナンス(2021/01/11)
今回も、交換部品を入手できれば自分で修理できると思い、近くの建材卸商社に行って探すと、454円(税込み)で泡沫キャップが売られていた。TOTO製の部品は1種類であることを確認して購入。帰宅後、壊れた部品を取り外し、蛇口部分を掃除してキャップを取り付けるとピタッとはまって修理は完了した。
私が掃除するようになったのは、大工だった父の影響が大きい。他の家事はほとんどやらなかった父だったが、毎朝、家中に掃除機をかけるのが日課だった。掃除機をかけ終わると、神棚と仏壇から水の入った器を下げ、新しい水を供えて手を合わせてから食卓に座った。
小学生の頃から、建築現場に連れて行かれて、よく手伝いをしてきた。その時に「現場管理の基本は掃除」であることを知った。朝、現場とその周辺の掃除を行い、夕方、仕事が終わると、掃除して帰る。現場では様々な職人が入れ替わりで作業を行うので、掃除や片付けを行いながら、仕事の出来もチェックしていたのだろう。
■小林製薬は工場の青かび汚れを掃除しなかったのか
工場などのものづくり現場でも、掃除や整理整頓は大切な仕事だ。現役記者時代に自動車など様々な工場を見学取材した経験があるが、どの工場にも整理整頓などのポスターが張られていたという記憶がある。現場管理が重要なのは、どの工場でも同じだと実感した。
小林製薬の紅麹サプリ問題では、製造工程で青かびが混入したことが明らかになった。NHKなどの報道によると、問題が発覚する以前から工場内にカビとみられる汚れが見つかっていたようだ。日経新聞でも、現場の人間が、青かびが発生していることに気が付いていたと報じていた。
素朴な疑問として、健康食品を製造する工場で、カビとみられる汚れを掃除していなかったのだろうか。その汚れを掃除しただけで、青かびの混入が防げたのかどうかは分からないが、工場の汚れを放置していたことで創業家のトップは経営責任を問われることになった。
掃除は、住宅や工場など建物の管理・メンテナンスには欠かせない仕事である。最近では、家庭用・ビル用などの掃除ロボットが登場して普及し始めているが、ロボットには床のゴミや汚れをきれいにできても、建物の状態をモニタリングして異変を検知するような機能はない。それが付いていればロボットに掃除を任せられるのだが…。