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「新しい地図」という”物語”

国民的アイドルグループのSMAPが解散したのは2016年の末。
元メンバーの三人が立ち上げたファンサイト「新しい地図」が、2018年に新作映画を公開した。

・『クソ野郎と美しき世界』の「クソ」
・「大きな物語」と「島宇宙」
・大ヒットは今後も生まれるのか?
・大ヒットは在り続けなければいけない
・消費できるコンテンツには限りがある

『クソ野郎と美しき世界』の「クソ」

さんすう:「新しい地図」が映画作ったんですよね、『クソ野郎と美しき世界』。観たんですよ。映画自体は、四つの短編、それぞれ草彅剛、香取慎吾、稲垣吾郎がメインの一本ずつと、全員が集まる最後の一本という感じになっています。映画自体はともかく、「新しい地図」というもの自体が、事務所から抜けてやりたいことをやります、みたいな感じじゃないですか。すごくエポックメーキング的な存在で。映画自体も、「やりたいことをやろうぜ」的な、個性を出し惜しみしないというようなことを感じさせる映画でした。

さんすう:いわゆる映画の「クソ野郎」というのは何なのか。「クソ野郎」と言われるとどういうイメージがありますか?
サンタ:「クソ野郎」と言われてる人に対するイメージ…「上の人」のイメージやな。やっぱり。
さんすう:それは何が「クソ」なんやろう。
サンタ:「今に見てろよ」みたいなイメージじゃない? 心に秘めてる目上に対する反発心みたいなイメージはあるけどな。
さんすう:じゃあ、「こいつクソやな」みたいな時の「クソ」。
サンタ:あー、それもあるかな。僕はあんまり思わんけど、使われ方としてはそれも普通な気がする。
さんすう:傍から見ると、クソみたいなことをしている。しょうもないとか、何の価値もないとか。でもそれを肯定しているというか。この映画、ならびに「新しい地図」というものが。自分の「やりたい」を、たとえそれがカッコ悪くても、人から「クソ」だと言われようと、それを出していこう。そういう動きが最近強くなってきたようにも思える。で、それに賛同する人たちが出てき始めているように思う。
サンタ:うん、なるほど。賛同している人たちって言うのは、どういうことですか?
さんすう:賛同しているというのが正しいのか…「それっていいよね」「自分もやる」って人もいるやろうし、単純にそういうことをしている人たちに対して魅力を感じる人たち。
サンタ:その言い方的に言うと、さんすうはそうじゃないってこと? さんすうはどうなん? 魅力を感じるタイプなん?
さんすう:どちらかといえば感じる。
サンタ:あー、そうなんか。
さんすう:「新しい地図」と、(さんすうの好きな)能年玲奈(のん)の共通点はそこみたいなところがあって。事務所から抜けてやりたいことを突き詰めてやるというか。わき目もふらずにやるというか。

さんすう:そしてそれを支持する人たちがいる。もちろんファンクラブというものがあるとしても。今回の「新しい地図」の映画は、二週間限定公開なんですよ。結構限られている公開の中で、だからこそなのか、目標としていた観客動員数の1.5倍くらいは来ているらしくて、第2弾も制作が決定している。すごい、なんだろうな、SMAPやったというのがデカイけど。やっぱりその、西野亮廣さんの本(『革命のファンファーレ』幻冬舎、2017年)にもあったけど、個人の考え、力、アイドル性みたいなものが、今の時代強いんだろうなということを改めて思った作品でした。それがすごい混在してきているなと。日本、特に東京。

「大きな物語」と「島宇宙」

サンタ:それってさ、どうなんかな。みんなそうなりたいと思う人が多いんかな。じゃなくて、かっこいいと思う人が多いんかな。それって、質が違うと思うんですよ。めっちゃひどい言い方すると、「かっこいい」と思う人って結局搾取される側なんですよ。お金払う側なんですよ。全員がなりたいと思って全員がなったとしても、お金払ってくれる人もいる。やから、全員がそうなりたいと思うのも問題やし、全員がかっこいいと思うのも問題やから、一概にどっちがいいとも言えないんけど。(全体としては)どっちに興味がいってるんやろうね。
さんすう:どうなんでしょう。ただ、今までのことを考えた時に思い出したのが、「小さな物語」「島宇宙」の話。正しい理解かどうかはさておき、要するに世界的に9.11、3.11とか、「信じていたもの」が崩れているような社会状況があるじゃないですか。だからみんながこれを信じるというものが最近揺らいできている。全員が信じるような「大きい物語」、全員におけるハッピーエンドというものが最近失われつつあるので、「小さな物語」、自分たちのそれぞれが信じるものに集まってきている。それが「島宇宙」的に色々あって、その中で活動するので、排他性が生まれてしまうという。*注1

注1)これについては、岡本健『n次創作観光』(NPO法人北海道冒険芸術出版、2013年)の20-21頁を参考にしている。

サンタ:なるほど。めちゃめちゃ面白いですねそれ。
さんすう:それを思い出して、今の「新しい地図」的なものとかって、そこと呼応するものがあるんじゃないかなとちょっと思って。大分飛躍してるかもしれんけど。
サンタ:なーるほど。
さんすう:もっと飛躍すると、トランプさんとか、ドイツの極右政党とか、保護主義が強いじゃないですか、世界的に。それも結局排他的なもので、そういう意味でも、広く見てもそういう傾向がある中で、「新しい地図」という、まさに「新しい」指針みたいなものを出してきたな、みたいな。だからそれに熱狂する人たちっていうのも一定数現れ始めた。

大ヒットは今後も生まれるのか?

さんすう:でもいわゆる大ヒット的なもの(=大きな物語的なもの)ってまだまだ生まれる気がするんですよ。それこそ「コナン」とか、「ドラえもん」が興行収入を伸ばしていたりとか、『君の名は。』(新海誠監督、2016年)もしかり、『アベンジャーズ』(Joss Whedon監督、2012年)、ディズニーしかり。テレビでいうと日テレとかも、相変わらず視聴率の三冠取っているし、みんなが好きなものはそれなりにある。細かいものが出始めた時に、大ヒットというのは起こるんだろうかという疑問が湧いたけれども、今はまだヒットしているものがあるよねと。じゃあそれはこのまま続くんだろうか、どうなのかっていう。みんながみんな好きなものっていうのは、これから新しく生まれていくんだろうか。ヒットしているものは、これまで定番だったものは地力があるから、受け入れられているだけなんじゃないか。それこそ「妖怪ウォッチ」がどうなるんだろうか。
サンタ:なんか、両方とも反映し続けると思うけどね。なんなら、時間が増えるんですよ、人間の。余暇時間が増えるから、消費する時間も増える。結局大ヒットと小さいやつがあるのって、生活がある程度安定してるからできるやんか。余裕があるから選択肢があるし、日本はそういうのが安定してるから。で、生活がたぶんより安定してくると、仕事もAIとか出てきて、一部の人は仕事がなくなっちゃうとか、一部なのかどっちがマジョリティなんか分かんないけど、時間が出来る人が増えてくるから、結局、大ヒットも消費できるし、個人の時間も消費できるから、僕は両方なくなる、どっちかが淘汰するってことはないんじゃないかなと思うけどね。
さんすう:じゃあそうすれば結構豊かな消費生活ですね。
サンタ:そうなると思う。そういう文化なんじゃないかと思うし、むしろ両方。こっちしかできない人とか、こっちしかできない人よりかは、経済的にはそっちの方がいいと思う。いっぱい時間があって、大ヒット商品がいっぱいある世の中の方が、人類的には反映すると思うんですよ。経済も回るし、時間も増えるし、楽しいことも出来るから、良いコトなんじゃないかなとは思うから、さんすうの言う通り、個人のやつが出てきたとしても、大ヒットは出てき続けるやろうし、すごいいっぱいになるんやろなと思う。

大ヒットは在り続けなければいけない

さんすう:だからやっぱり両立というか、コンテンツにおいては、さっきの言葉で言うと、「大きな物語」というか、みんなが信じるものっていうのは在り続けるんだろうなと。いやそれは、あり続けなければならないのかなっていうのは。
サンタ:たしかに、そうかもしれないですね
さんすう:小さいものが発展していくためには(大ヒットが必要)。
サンタ:なるほど。めちゃめちゃそうやなそれ。それすごい良い考えかもしれへん。なるほど。やから共存を考えないといけないわけですね。例えばネットをテレビを淘汰するとか、テレビがネットをたたくとか、そういうのは良くないのかもしれないですね。
さんすう:そういうことになってくるな。テレビとネットって意味でいうと、テレビが今までの「大きな物語」であるなら、ネットがそれを駆逐してしまうのではなく、テレビがあるから、ネットでそれぞれの小さなコミュニティが生まれる余地がある、とか? まさに、「サブ・カルチャー」。
サンタ:「サブ・カルチャー」やな、それ。

消費できるコンテンツには限りはある

サンタ:でもまだ、マイノリティーなイメージはあるよね、どうしても。サブカルチャー。
さんすう:ただその「サブカルチャー」であったものが、メジャー、そっちにいくのは何がきっかけなのかは気になってきたな。どこでブレイクスルーするのかみたいな。
サンタ:それは指標がたくさんありそうですね。
さんすう:アニメだって、これまではオタクが見るもんだみたいなのがあったけども、まずはジブリがあって、で、『君の名は。』があって、みたいな。だいぶ年空いたけど(笑)
サンタ:30年くらい空いた(笑)
さんすう:まぁアニメを見る文化っていうのが大衆化したきっかけ的なものにいたるまでには、何があったのかみたいな話とか。
サンタ:なるほど。「大きい物語」が増えていくんかな、そういう意味では。どうなんやろね。成長する説なんかな、アニメみたいに。
さんすう:大きいものが出てきたら、今までの大きいものがなくなるのかどうか?
サンタ:大きいものはあり続けて、中身は変わらんかもしれないですけど、外枠は変わらんというか。
さんすう:だからあれ、その意味でいうと、大きいものどうしっていうのは、上限はあるくない? 余暇時間が増えるとはいっても、時間は。
サンタ:有限であることには変わりはないからな。
さんすう:消費できる量には限りがある。だから、大ヒットするものがいくつかあったとしても、選ばなければならくなってくるから、当然その中で入れ替わりって言うのは起きてくるね。だから、またさっきの映画の話ですけど、例えば「妖怪ウォッチ」がマジョリティになったとして、今のマジョリティである「ドラえもん」とか「コナン」とか「ポケモン」っていうのも、当然減ってしまうのか。全体は一緒だけど。でも増やせるのか? いわゆる、日本のコンテンツ産業の市場規模12兆円を増やせるのかって話になってくるね。すごい話が広がっちゃったね。

サンタ:まあ大ヒット作品の上限を増やせるか、という話にまとまった?
さんすう:──に繋がってくる。大衆向けと、個人向け、小さなコミュニティっていうものが、併存はしていくんだろうけど、小さな物語が大衆向けになり得る時がくるのか。で、なった時に、全体として(市場規模が)上がるのか、内訳だけがかわるのか。
サンタ:それいいですね、すごい良いまとめ方ですね(笑)
さんすう:なので今後。
サンタ:期待。
さんすう:「新しい地図」含めて期待しております。

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編集:さんすう

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