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【作品コンセプト】蟲筆
今日は作品コンセプトを詳しく書いていこうと思います。
現在開催中の『ここに滲みつつある。』に展示中の作品『蟲筆』のコンセプト解説記事になっています。
こんな感じで主催の猪瀬さんを中心に展示会を行なっております。
自分が在廊していないタイミングや言葉たらずな説明をしているので今回はもっと詳しくコンセプトをまとめておきたいと思います。
前作の蟲筆
今回の作品はゴキブリを電気刺激でラジコンのように制御することによって書道を行う前作のアップデート作品になっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1662387844876-Gy7HIQ3ToK.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1662387863164-a2U8mApIU0.png?width=1200)
自分がラジコンのようにゴキブリを制御して書道を行なっているのですが、ゴキブリも従順に制御に従いわけではなく、自分の意思で勝手に違う方向に歩いたりします。
その際にゴキブリを自分にイタコさせる感覚で制御を行うと上手くかける。逆に、制御するという自分をゴキブリにイタコさせることによっても書道を行える。
この時の感覚は完全にゴキブリと自分が溶け合って一体化しているような感覚ではなく、自分とゴキブリの、言い換えれば、主体と客体を高速で入れ替えているような感覚に近いです。
これが禅や道教、井筒俊彦の思想に通じてくると言うのが前回の作品のコンセプトでした。
それによって事事無礙や理事無礙に至る。
型月作品(Fateシリーズなど)の魔術師のようなことを行なっているわけです。
キャプション文も載せておきます。
長いですが、うまくまとめられている気がするので読んでほしいです🙏
ゴキブリとの禅問答。書道を通じて自分とゴキブリの狭間に触れていく。ゴキブリとの研究生活の中で、宇宙の”理”に触れるような感覚に襲われる。書道には禅的な「世界を理解するためのメソット」が組み込まれている。書道によって、ゴキブリと自分との主客の二項対立は溶けていく。自分が書道を行っているのか?ゴキブリに書道をさせられているのか?このような疑問すら湧かないほど我々の主客は高速で入れ替わり、この二者を中心とした世界全体を意識するようになっていった。これが可能なのはコンピュータというフィールドの上にいるからであろう。ゴキブリと書道を行う、佃はそれを「ゴキブリとの禅問答」と捉えた。決して理解できないであろう彼らと高速で主客を入れ替えることで、生物と人間の「狭間」が見えてくる、そんな気がする。
事事無礙という概念は、物体は独立して存在しているのではなく、端的に言えば「空」であり、宇宙全体のものからの写像によって成り立っているという思想です。
そのため、「物体は存在せず事同士の相互関係性こそが世界の本質であるとする思想」と言ってもあながち間違ってはいないと思います。
詳しく知りたい方は以下のリンクに事事無礙についての解説文を書いているので一読してみてください。
この事事無礙を理解するために、前作を作った際は相互関係性についてよく考えていました。
例えば鯖は、彼らの住んでいる環境を投影した像であると考えることもできます。
![](https://assets.st-note.com/img/1662388646654-4UIGH4tMiJ.png?width=1200)
鯖を下から見るマグロのような捕食者にとって彼らは太陽の光に溶け込んでみえ、逆に上から見る鳥のような捕食者にとっては波が立っている海に溶け込んで見えます。
マグロと鳥の視点と環境によって彼らの体色とテクスチャは構成されているわけです。
事事無礙と生物の関連性について少しずつわかってきたでしょうか?
直感的にでもわかっている前提で話を進めます。
このような相互関係性を直感的に体感的に経験できる手段として、禅や書道といった手法が東洋哲学ではとられてきました。
特に書道には、触る触られる、といった相互関係性があります。
どういうことか具体的に説明しますね。
人間には五感が存在します。
視覚:目で机を見る。
聴覚:耳で音を聞く。
味覚:舌で刺身を味わう。
嗅覚:鼻で花を嗅ぐ。
触覚:手で机を触る。
しかし、触覚だけ「手で机に触る」という別の助詞が使えます。
「に」という助詞にはこちらからの能動的な動作を意味を含みますが、「を」という助詞には受動的な意味合いが強いのは直感的に感じてもらえると思います。
そのような意味で触覚にはこちらから相手に与える影響と相手からこちらに与える影響とで相互関係性があるのです。
そこに書道の「触筆(蝕筆)」を見出したのが石川九楊です。
彼は、書には相手にも影響を与えると同時にこちらにも影響を与えるものとして相互関係性が強いと主張しました。
結構端的にまとめましたが大きくは外れていないはずです。
ここでようやくゴキブリ書道の話に戻ってくるのですが、紙と筆、筆とゴキブリ、ゴキブリとコンピュータ、コンピュータと自分、と言ったさまざまな相互関係性によってゴキブリと自分の主客が高速で入れ替わる感覚がある。
それがゴキブリの環世界に触れるきっかけになるのではと考えたのが前作の作品です。
うまく伝わっているでしょうか?
端的に言えば、ゴキブリを制御して書道をすることで彼らの感じている世界に触れようとするのが前回の試みでした。
ようやく、これで今回の作品のコンセプトに移れます。
今作の蟲筆
今作の蟲筆のコンセプトを一言で言うと『前作で感じた世界観を立体作品に落とし込む』というものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1662389649326-zHcDl4d1To.png?width=1200)
先述した鯖のようなにじみのあるテクスチャ、環境や照明によって複雑な色を出す腐食した銀箔によってその当時感じていた世界観を表現しています。
あと、事事無礙などの東洋思想を感じ取れるように銀箔を用いたという理由もあります。
文字は画像から立体物を作り3DPrinterで印刷しました。
今回は、「コンピュータというフィールド上で僕とゴキブリが禅問答をしている」ということを映像なしで伝えることが目的でもあったので「コンピュータ」「ゴキブリ」「東洋思想」の三要素を組み合わせた作品に仕上げたいと思っていました。
3DPrinterは「コンピュータ」要素を担っています。
そのためあえて積層痕(3DPrinter独特の模様)を残し、その上から墨液を塗ることでコンピュータと東洋感のある作品に仕上げています。
ゴキブリが書いた字であることも伝えたかったので、要所要所にゴキブリを貼り付けて作品を完成させました。
平面作品としても立体作品としても見ていて綺麗かつ独特な世界観を感じ取れる良い作品に仕上がったと感じています。
写真ではみる角度やライティングによって変わる色味や、カメラ越しでは伝えきれない光沢感がSNSで伝えられないのが残念です。
ぜひ実物を見にきてください🙏
販売も行っているので、もし気に入ってくださる方がいらっしゃれば相談ください。
作品制作の励みになりますので、購入という形で応援してくださると本当にありがたいです。
最後に
長いコンセプト記事を最後まで読んでくださりありがとうございました。
興味を持ってくれた方のために色々リンクを貼っておきますのでチェックしてみてください!
Mail:yuga.tuskuda.of@gmail.com