『響き煌めく境界線』振り返りPart.02
前回に続いて、探究活動としての振り返りをしていきたいと思います。
今回は鑑賞者からの感想からファクトベースで振り返っていきます。というのも、文化庁メディアクリエーター育成支援事業にアドバイザーとして参加されている森山さんから、「鑑賞者からのフィードバックを活かした方がいい」という趣旨のアドバイスをいただきました。これまでは、自分の主観で作品の反省をしていたのでもっと外を向いた声を取り込んでいくべきだと感じています。その声に対してどのような姿勢を取るかは別の話ですが。
探求活動としての気付き<作家編>
この章では『蟲筆 <般若心経>』の作品の振り返りをしていきたいと思います。
インスタレーションという展示形態ということもあり、作品へのSNSでの投稿は少なかったです。一方で対面で話してくださった方からは色々感想やアドバイスをいただきました。
技術的なことへの質問と倫理的な心配が多い印象でした。作品というよりは技術としてみられています。マッドサイエンスという言葉で技術も倫理も語れてしまう部分はどうしたものかと捉えています。良い反応なのか悪い反応なのかも判断が難しいですね。続けて、『現代社会との結びつきがコンセプトに含まれているといいよね』という感想は少しショックを受けました。個人的には今だからこそ生物と人間とコンピュータの関係性を再考する面白さがあるのに、その面白さがあまり伝わっていないことが悲しかったです。もう少し世俗的なコンセプトに寄せても良いかなと思う反面、理解されたら終わりだろ感もあり、、、これは複数の方から反応をいただいたのできちんと向き合うべきだと考えています。おそらくこの問題を引き起こしているのは作品から佃の人格が見えてこないことだと思います。各文字を工夫したり、フロアプランに遊びごごろや世界観をもっと入れてみたり、色々やりようはあると思います。照明や音響ではディティールは表現しにくいため、什器や細かなオブジェクトで表現していくのがいいのでしょうか?
一方で、作品の広げ方に対するアドバイスもいただきました。「空間音響とゴキブリが文字を書く映像があっている」「ゴキブリが文字を書く様子を大きなスクリーンで見てみたい」「Cloacaを参考にしたらいいかも」僕の解釈では「用いるミディウム(ゴキブリ)が強いことが面白いから、それを前面に押し出した展示形態を見てみたい」ということだと理解しています。
作品の良し悪しには大きく3つのポイントがあると考えています。
・完成度
・ミディウムの強さ
・売れるかどうか
僕の作品はミディウムは強いですが完成度(コンセプトや見せ方など)が弱いです。これまでの自分は完成度を高めようとしていましたが、もっとミディウムの良さを尖らせても良いのでは?とも思いました。というか、鑑賞者もそこにしか興味がない。
ゴキブリが書いた文字が人には書けそうにない文字だ、と言う感想もいただきました。確かに人の手首や腕の振りでは生まれないような偶関数でもあり奇関数でもあるような文字になったと考えています。
さて、では個人的な作品の面白さや反省点を書いていきたいと思います。
まず、選定するフォントはもう少し選んでも良いと思いました。今回は行書体のフォントを選んだのですが、「般若心経」の原本のフォントをゴキブリで描いてみるだけでも般若心経への解釈が変わります。
2つ目に「パフォーマンスアート」に落とし込んでも良いとも思いました。先述したように本作品には「作品から佃の人格が見えてこない問題」があります。であれば、パフォーマティブにしてゴキブリと僕との関係性をそのまま見せつけてしまうのもありでしょう。
3つ目は「ゴキブリが書いた文字であることを伝える」です。もう少し絞って言うと、鑑賞者は「ゴキブリが文字を書いている様子」に面白さを感じるのであって「書かれた文字自体」にはあまり興味がないのです。
大まかにはこの三つでしょうか?これらを参考に雑な広がり方をメモしておこうと思います。
・ゴキブリ書道のパフォーマンス
・ゴキブリで文字を書くまでをフォトブックにまとめる
・ゴキブリと文字を樹脂標本で固める
・般若心経の原本をゴキブリで書いてみる
・ホログラフィック音響で耳元でゴキブリのカサカサ音が聞こえる
探求活動としての気付き<フロアディレクター編>
この章ではフロアディレクターとしての振り返りをしていきたいと思います。
フロア自体は完成度の高いものになったと感じています。特に照明と音響を手がけてくれた頃安のおかげでコンセプトへの没入感も高いものになったのではないでしょうか?
前回の記事でも書いたので詳しく書かなくても大丈夫かな?
探求活動としての気付き<プランナー編>
この章ではプランナーとしての振り返りをしていきたいと思います。
「般若心経x初音ミク」と言う着眼は海外ウケもよく、若年層も親しみやすいので良いコンセプトではないかと考えています。キラーワードになるようなコンセプトは今後も取り入れていこうと思いました。
その他の反省は探究活動っぽくないですし、前回書いたので省略します。
最後にテキストをぱぱっと載せておきます。
展示会テキスト
-間-
アーティストグループ「- 間 -」は『生物と人間とコンピュータの関係性』をテーマに活動しています。メンバー の佃 / 猪瀬 / 頃安は、それぞれ生物 / 人間 / コンピュータを軸に作家活動を行っています。各メンバーの独自 の探究活動は、チームでの数年の活動を通して互いに干渉しあい、カオスな思想を育んで行きました。今回の展 示では、- 間 - の一つの到達点を感じてもらえるのではないかと思います。
・佃優河 昆虫をコンピュータ制御した作品を制作し、「生物」の軸を担う。ゴキブリを電気刺激で制御し書道 を行う。
・猪瀬暖基 ネット文化や電子デバイスに着目した独自の観点から人形制作を行う。MIKUBUDDHA「私は解 脱しているのではないか?」
・頃安祐輔 音に関する科学研究やアート作品の制作、音楽制作などを行う。作品制作では、無機質なものを大 量に並べ、電子工作によってリズミカルに、また時にランダムに動かすことで、生命を感じさせる技法を用いる。
響き煌めく境界線
本展示会は - 間 - の一つの到達点を表現できたと思います。「般若心経」を軸に広がりを持つ、各々の持つ作家 性を体現したインスタレーションに仕上げました。我々の感じている世界観の根底には <MIKUBUDDHA>(ミ ク仏陀)が鎮座しています。MIKUBUDDHA は現代人にとって、解脱した存在、つまりはブッダなのではないか? というコンセプトのもと作られています。また、般若心経は仏教の持つ世界観(事事無礙)を最小文字数で表現 した経典であり、「色即是空空即是色」は有名な一説です。同じ人間であった仏陀ですら我々、凡夫と見ている 世界は違います。であればバーチャルな存在である初音ミクの見る世界はもっと異なるのではないでしょうか? さらには昆虫やコンピュータのもつ世界観はどのような形質を持つのでしょうか? 我々の世界観では三者に大きな差異は存在しないように感じます。ですが、我々 ( 人間 ) が他者 ( 生物 / コンピュー タ ) の環世界に足を踏み入れようとすると、それらの輪郭はぼやけて捉えられなくなってしまいます。生物 / 人 間 / コンピュータ がそれぞれ持つ環世界は地続きのようで、常世のように離れて感じるのです。これはある意 味で「連続的であるが離散的でもある」とも言えるのではないでしょうか。本展示会の題名には、連続的(アナ ログ的)ニュアンスを含む「響く」と、離散的(デジタル的)ニュアンスを含む「煌めく」を用いました。
『生物 / 人間 / コンピュータ の環世界は互いに連続的でもあるが離散的でもある』
本展示会は、生物 / 人間 / コンピュータの相互関係性が少しでも表象されないかという思いがこめられています。