『インタビュー:eスポーツを科学する』 ~第一回~ その②:筑波大学と産学官連携のeスポーツ
こんにちは、筑波大学OWLSです!
初めましての方もいらっしゃると思います。
OWLSがどのような活動をしているかは、こちらの記事をご覧ください。
また、今回インタビューを受けていただいた松井 崇先生についての詳細は以下のページをご覧ください。
また、第一回『eスポーツと学問』の”その②”ということで、前回をまだご覧になってない方は、こちらからご参照ください。
~第一回~
eスポーツと学問
その② 筑波大学と産学官連携のeスポーツ
インタビュアー (motti & eneman):
再度、スポーツと研究の質問になるんですけど、筑波大学ってやっぱりスポーツが盛んじゃないですか。実際体育専門学群もありますし。
松井先生:
うん。
インタビュアー:
スポーツ研究っていうのも盛んだと思うんですけど、今やっぱりeスポーツっていうのが、今この筑波大学でも注目されてますよね。というのも2020年1月から松井先生も含めeスポーツ科学プロジェクトなるものが行われているじゃないですか。
松井先生:
はい。
インタビュアー:
その設立経緯だったりとか、どういった思いで始められたとか、どういった方が関わってるとか、詳細を教えていただきたいです。
松井先生:
はい。えーっとですね。始めたのはちょうどコロナ禍に入る直前ぐらいだったんですよね。重複になりますけど、きっかけは2019年の茨城国体で、初めてeスポーツが文化プログラムとして行われたっていうのがあります。
インタビュアー:
はい。
松井先生:
今のeスポーツは光も影も強い。プロになると儲かるんじゃないかとか。その一方で、それに向けたライフスタイルはあまり良くなくて。不健康だったり、学業との両立が難しかったりするんじゃないかとか。ただ、その辺を僕がさっき申し上げた幼少の頃の経験から、「いいところをなんとかうまく引き出せるんじゃないか」って思うわけです。
インタビュアー:
なるほど
松井先生:
そうしたeスポーツの現状に、僕が今までやってきた「スポーツ科学」が貢献できないかと。それは一言で表現すると、おそらく「eスポーツをスポーツ文化の一角としてちゃんと位置づけるんだ」ということだと思いますね。
そのための一歩目として、、、
そもそも「eスポーツはスポーツなのか?」という議論はよくありますけど、その議論って実は終わりがないんですよ。スポーツは何かって。非常に哲学的に今でもホットなテーマですし。哲学は非常に重要なんですけど、それだけでは終わらないんですよ。ずっと考え続ける、問い続けるっていう感じで。
じゃあeスポーツがスポーツだとした場合に、どのあたりにスポーツ性があるといえるんだろうか。どんなスポーツなのか。こういうことをスポーツ科学の手法で、一つ一つ明らかにしていきましょう、というのが筑波大学eスポーツ科学プロジェクトの設立当初の目標でした。
インタビュアー:
うんうん
松井先生:
そのために、スポーツ科学っていうもの自体が実は文理融合、
なぜ文系と理系は分かれたのかっていう話もありますけど、この世にあるものって、何事も文系理系って分けるのも実は非常に難しいんですよ。
ですけど、人間は、特に日本では、なにかと文科系と理科系、あとは部活が運動部と文化部みたいな分け方も。じゃあスポーツは文化じゃないのか、、?いやスポーツも文化でしょっていう感じで、、、
その辺をスポーツ科学っていうのは、分けずに進めていこうとしている「複合領域」と言われる学問なんですよ。
インタビュアー:
なるほど
松井先生:
なので、それこそスポーツ哲学から、法学とか政策学とか心理学といった文科系の取り組みから、僕みたいな生理学とか、生化学とか栄養学、あとは大規模に調べる疫学なんかですね。その辺が複合的に存在して、文理問わずに力を合わせて、人間活動としてのスポーツを理解し、健全な発展を目指しているのがスポーツ科学で。その考え方をそのままeスポーツに当てはめて、まずはeスポーツがどんなスポーツなのかやって行きましょうと。
もちろんですね、スポーツ科学だけではなくて、eスポーツになるともっと広い知見が必要ですよね。法学系とか、情報系とか、あとは医学の方の知識ももっと必要になります。体育系だけじゃなく、学問領域の壁を超える。そして部活で言えば運動部と文化部の壁を超える、そして理系と文系の壁も越える。そういう科学や人間活動を促進するツールにしていこう。そういうのが筑波大学eスポーツ科学プロジェクトの設立の趣旨ですね。
インタビュアー(motti):
そうだったんですね
そこに関連して、2020年に体育スポーツ局、当時はアスレチックデパートメントでしたね。そこと松井研究室で行ったウイニングイレブンの大会がありましたよね。実は僕も参加してたんですけど(笑)
松井先生:
参加してくれてたんだ。
インタビュアー(motti):
僕、、そうですね。第二回と第三回出ました(笑)
松井先生:
これまた素晴らしい!
1回目はオンライン大会、2回目はオフライン大会で。3回目がオンラインでのチーム大会だったよね。
インタビュアー(motti):
そうです!
松井先生:
やっぱりオフラインでやると、興味とか、愛着とか湧きますよね。それを体現してくれてるなって今思いました。
そういえば、大会のときmottiっていたね!そのときからmottiだったよね。
インタビュアー(motti):
はい!
松井先生:
今繋がりました(笑)
いやあ、もういつも紹介してる資料にデータとして含まれてるよ(笑)
インタビュアー(motti):
データが取れて、よかったです!
友人を誘って一緒に出てましたね。
松井先生:
いやあ、いいね。友人とは元からの知り合い?
インタビュアー(motti):
体育の授業のソフトボールで友達になって。
松井先生:
それはスポーツの絆だ(笑)
インタビュアー(motti):
そうなんですよ!
松井先生:
いいじゃん(笑)めちゃくちゃ理想的だ(笑)
インタビュアー(motti):
それこそ、体育スポーツ局が開設している授業で「スポーツが変われば大学が変わる」ってのがあるんですけど、そこの掲示板に、松井先生のeスポーツの実験兼大会の告知があったから気づいたんですよ。ウイイレ好きだったので、同じく好きだったソフトボールの友達誘って、第二回と第三回に(笑)
松井先生:
なるほど、、、なんか今すごく嬉しい。
きっかけがフィジカルスポーツで、さらにeスポーツでその絆が対戦相手だったり仲間同士だったりとで深まって。
インタビュアー(motti):
そうなんです。理想的な流れですね(笑)
そこから大学スポーツとeスポーツというものにちょっと可能性を感じてOWLSに入った感じですね。
松井先生:
そう!それをちゃんとサイエンスで裏打ちしながら、そういうカルチャーとしてね、、、、今のeスポーツって珍しい存在というか、新規性があるから盛り上がるという側面もある。でもそれを当たり前の文化として、当たり前に存在しているという風にしていきたいっていうことなんですよ。
ただ、そのためにはやっぱり、危惧されてるような依存症とか学業との両立が心配とか。それは、疲労を感じにくくてやりすぎちゃうからっていうのがポイントだと思うんだけど。
そこをなるべく最小限にして、今言ってくれたようなeスポーツの良い部分を伸ばせるようなライフスタイルやスポーツライフ、もしくはプレースタイルを作っていくということが目標なんです。
インタビュアー:
ありがとうございます!!
では、筑波大学”内”の話が盛り上がったんですけど、ここからは”外”の話も聞いていければなと思います。
現在、松井先生は茨城県さんや民間の企業さんだったりと、産学官で一緒に取り組まれていますが、なぜ行われているのか、具体的にどういうことをやっているのか教えてください。
松井先生:
まずですね、一番目立っているのは、eスポーツ科学を進めるための「産学官連携協定」を結んだ、茨城県、NTT東日本、NTTe-Sportsとの取り組みかと思います。
インタビュアー:
はい。
松井先生:
さっき申した通り、スポーツ自体がまず一つの学問分野では扱いきれないっていうところ。業界としてもそうなんですよね。
それがeスポーツになると、もっとなんですよね。
なので、今の産学官連携で何かを完璧にできるかっていうと、そうではないと思うんだけど、まずはそういう状況を相互理解して、垣根を互いに越えて物事を進めていくという文化を提案していくということが大きいです。
インタビュアー:
はい。
松井先生:
モデルケースを作っていこうという意味合いで、まずは体制を作るということも大きな目標としてありました。
今の国立大では、いわゆる国から無条件でもらえる予算が年々減っているという話はよく聞くでしょ。
インタビュアー:
そうですね。
松井先生:
そういう中で、大学っていうのはもう国立大学でさえ、国にぶら下がって上から降りてきたお金でできることをやるっていうことじゃなくて、現実社会に必要とされていることを自ら進んで探してやっていく。そういう存在になっていくということが必要なであるという流れなわけです。
そこで、まず現代のスポーツ科学が社会に貢献できることの一つとして、eスポーツの不安な部分をなるべく減らして、いい部分を伸ばすということがあるのではないかと思います。
それを産学連携で、「やろうとしている」ということを伝えることが大きな目的や意義の一つですね。
インタビュアー:
はい
松井先生:
そのために、大学だからこそできることももちろんありますよね。
例えば、eスポーツ大会を開催して、学生さんに出てもらって、そのときの心身の反応を見るということ。あとは、実験室にeスポーツの機材をセッティングして、長時間プレーの弊害などをそのときに体や心の動きから予測する方法を開発するとか、それを使ってどうやったら長時間プレーを止めやすくなるかとかっていうシーズを生み出すっていう、いわゆる「0から1を生み出す」ための実験的な取り組みとかね。
そうした取り組みを進めるっていうのがまずあって、それを土台にして、何か少し分かってきたとき。例えば、疲労の出具合が大学生などのいわゆるカジュアルプレーヤーで見られるものが、もっとプロレベルとか、大会を目指してハードに取り組む人たちでも同じように通用するのか、そういう人たちはかなり鍛えてるから、疲労の出方が違うのか、どっちなんだ?ということを調べる必要が出てくるじゃないですか。
そこで、NTTe-Sportsさんはeスポーツの施設を持っているので、そういう場にいらっしゃるeスポーツプレーヤーの人たちを対象とする。そのための架け橋をしてもらう、ということはNTT東日本さんやNTTe-Sportsさんとの取り組みの1つとしてやったりすることはありますね。
茨城県さんはどうかというと、今プレーヤーの話しましたけど、eスポーツの良い効果がわかってきたら、それを社会実装したいわけですよね。
そのときに今一番社会的に期待されてるのが、eスポーツでお年寄りの認知機能の低下を予防できるかとか、高齢者の孤独を解消して、生きがいを生み出せるかどうかということが、日本はもちろん世界的に課題になってるわけですね。そういうことを検証するときに地域と繋がっていく必要があるので、茨城県さんの力を借りるとかですね。
インタビュアー:
なるほど
松井先生:
その前段階としての学内大会における研究は、茨城県さんに研究費を支援していただいて、一緒に進めたりということもあります。そうして分かったことを、一緒にシンポジウムを開いて、情報発信を進めることもやっています。
インタビュアー:
うんうん。
松井先生:
そういう感じで情報を生み出して、それを本当に社会に還元できるかというところまでちゃんと検証して、それを研究発表だけでなくイベントなどを通してちゃんと発信していく。そういう取り組みは、やはり大学だけとか、企業だけとか、自治体だけではできないことなんです。全員の力がどうしても必要で。
でも、社会は基本的に縦割りで、こうした横ぐしを通すような取り組みっていうのは結構難しいことなんです。そこに横ぐしを通すというのは、そのコンテンツの力が必要で、今のeスポーツっていうのは、日本や世界でもその力をすごく持っていると思います。
インタビュアー(eneman):
なんか僕、北海道から茨城に来たんです。
で、県の雰囲気みたいなものを比較して、自分のアンテナのはり方が違っただけかもしれないですけど、茨城県ってeスポーツめっちゃ力入れてるイメージがあって。
松井先生:
うん
インタビュアー(eneman):
そういうのってなんでとか、松井先生が関わっているからとか、そういうのってあったりするんですか。
松井先生:
実は茨城県は自治体としては結構早くからeスポーツを取り入れようとして、プロジェクトを作っています。それは高齢者の支援とかもありますけど、eスポーツを通じて県内の産業を盛り上げようという「いばらきeスポーツ産業創造プロジェクト」を進められています。
それはなぜか?という質問だと思うんですけど、現在の県知事がeスポーツに力を入れている企業出身の方で。知事としてのリーダーシップを発揮されているということだと思います。
そういう動きが、enemanさんの印象に残るような、自治体としての積極的な動きに繋がっているのかもしれませんね。最近では、つくば市に、eスポーツが強くて有名なN高校と関連して、S高校ができていますね。また、県内のイオンモールでのeスポーツ関連イベントも増えています。今後の盛り上がりも楽しみですね。
インタビュアー(eneman):
なるほど、ありがとうございます。
第一回 その③はこちら
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