『インタビュー:eスポーツを科学する』 ~第一回~ その③:OWLSの誕生とこれからのeスポーツ研究
こんにちは、筑波大学OWLSです!
初めましての方もいらっしゃると思います。
OWLSがどのような活動をしているかは、こちらの記事をご覧ください。
また、今回インタビューを受けていただいた松井崇先生についての詳細は以下のページをご覧ください。
今回は、第一回『eスポーツと学問』の”その③”ということで、その①、その②をまだご覧になってない方は、こちらからご参照ください。
~第1回~
eスポーツと学問
その② OWLSの誕生とこれからのeスポーツ研究
インタビュアー (motti & eneman):
さっき「大学できること」みたいなお話をされてたと思うんですけど、そこをもう少し深ぼらせてください。
松井先生:
はい
インタビュアー:
「大学でできること」の一つに、我々OWLSがあると思います。
御存知の通り、僕らOWLSは筑波大学体育スポーツ局、つまり大学組織が設立したっていう全国でも殆どない珍しい組織です。
サイトにも載ってますが、体育スポーツ局はミッションとして、
を掲げています。
これは、我々のチームのコンセプトにも大きく反映されてます。
だからこそ、「大学でできること」の一つとして出来たチームと強く感じています。
それでおそらく、OWLSができる前に、松井先生は体育スポーツ局だったり、その他関係者なんかと、さまざまなお話し合いをしていたと思います。設立に関わられている一員として、この「eスポーツチーム」という革新的なことを大学が行う意義はどんなところにあるのか、また、OWLSにどのような期待を持っていらっしゃるかということをお伺いしてもいいですか。
松井先生:
今eスポーツというのが、新しいスポーツとして世界でも、特にプロレベルでも、大注目されていて。それを目指して、日本でもなりたい職業の1位とか2位とかになったりするっていうぐらい子供たちも本当にプレーしている。そういう中で、スポーツ科学者たちは、「あんなのスポーツじゃない」って言ってていいのかっていう。それはやっぱ違うんじゃないかと。
インタビュアー:
ほう
松井先生:
俺はゲーセン世代だったから、分からなくもないんだけど、ゲーセン世代よりも上だと、多分あんまりやったことがない世代で、本当に想像ができないっていうこともあると思います。
インタビュアー:
ゲームってのがなかった層ですよね。
松井先生:
インベーダーゲームとかが1978年とかで、俺は1984年生まれだから。俺の親世代が20代くらいのころに初めてインベーダーゲームみたいのが出て。
そういう「ゲーム」が大会になっていくみたいなってのは、やっぱり想像ができない世代が上にある。その世代にはゲーセンもほぼないから、喫茶店のテーブルがゲームになってるとか。
インタビュアー:
見たことありますね。
松井先生:
そこでコーヒー飲みながらとか、タバコ吸いながらやるってかんじだから、やっぱスポーツとちょっと距離があるような文化として捉えられるというのもよく分かる。
それをやっぱり、俺たちの世代は体育スポーツ局のミッションにあるようなスポーツの健全化の考え方に当てはめて、eスポーツを特別視するのではなく、みんなが今フィジカルスポーツをやってるのと同じように取り組んでもいいんだと。それを夢にしてもいいんだと。そういう世界を作っていく。
そのために必要なのは、体育スポーツ局が掲げてるように、安心安全な大学スポーツ教育のシステムと、スポーツの価値・効果を最大化することなんですよ。
だけど、eスポーツについて、科学に基づいた安心安全と最大化というのを今すぐに支援できるかっていうと、”できない”っていうのが今のeスポーツの現状。
他のスポーツ科学はある程度進んでるから、一応言えることはあるんだけど。eスポーツに関しては、本当に何時間やったらいいかとか、そこすらもなかなか分からないっていう。
インタビュアー:
うん。
松井先生:
そこを科学するところから大学としてやりましょうという流れで、そこに出てきたのが”私だった”みたいな(笑)
インタビュアー:
なるほどなるほど(笑)
松井先生:
めっちゃなんか自慢みたいになっちゃったけど(笑)
そういう感じです。
インタビュアー:
ありがとうございます!
松井先生:
OWLSの皆さんには、そうした構想のモデルケースになってもらうっていうことが求められています。eスポーツと学業を両立しながら、このプログラムを終えたときに、心身ともに成長して、絆や自信を備えた状態になるというね。
そうして、学生スポーツとしてのeスポーツへの健全な取り組み方を提案すること、それがOWLSには求められてるということだと思います。だから、こういう情報を発信をすることもまた、理想ととても合致してると思いますね。
インタビュアー:
でもやっぱ、いい大学だなあ(笑)
松井先生:
いやそうだよなあ、本当にね(笑)
筑波大学、開学50周年になるけど、元々「新構想大学」だからね。
「それは70年代とか60年代に考えた新構想なんじゃないか」みたいな話もあったりするけど、結局、いくら新しいことを考えたって、時代はどんどん進んでいくから。だから、筑波大学というのは、伝統ももちろんあるんだけど、「革新の伝統」っていう言葉を覚えておいてください。それは、「常に変わり続けることが伝統なんだ」っていうこと。つまり、変わらないことが伝統なんじゃなくて、「『常に変わり続ける』ということを変わらない」と。それが筑波大のモットーとしてはあるってことだね。そうした観点から、約10年前に「未来構想大学」として生まれ変わろうという機運が生まれて、それが『IMAGINE THE FUTURE.』という標語で表現されていますね。
そして、この50周年に合わせて、これがバージョンアップして、『DESIGN THE FUTURE, TOGETHER. ―ともに拓く未来―』にと。
しかし、大学だけでは、imagineぐらいまではできるかもしれないけど、imagineしたことを社会にちゃんと機能して定着するようにデザインするような取り組みは、絶対に重要だけど大学だけではできないよね。
インタビュアー:
はい
松井先生:
だから、組織の垣根を越えた産学官連携が必要だよ、っていうところを表現して、この開学50周年に『DESIGN THE FUTURE, TOGETHER.』にアップデートされたわけですね。
「スポーツ科学」っていう言葉は、結構新しそうな気がするんだけど、1950年代くらいからあるんだよね。
科学の歴史としては新しいんだけど、それでも結構、それこそ縦割りになっている。だからもう従来のスポーツだけだとその縦割りから脱却できないんじゃないかっていう状況もあって。そこに新しい横ぐしを通せるコンテンツというのが、eスポーツに期待されるところです。さっきの繰り返しなりますけど、ここは非常に重要かなと思いますね。
インタビュアー:
なるほど
松井先生:
しかし、ただ横ぐしを通せばいいってもんじゃないので。
結局何のために横ぐしを通すかっていうのが重要と思います。今の筑波大では、体育スポーツ局の説明にあったような、スポーツの健全化、そのためには安心安全を保証することと、その土台の上でその効果を最大化していくことっていうのがあります。
ただ、それってスポーツだけに当てはまることってわけでもない。
インタビュアー:
そうですね
松井先生:
そうした取り組みは、スポーツだけでなくて、あらゆる領域で役立ちうるものだと思います。
体を動かすっていう要素がどうしてもスポーツでは大きくなるんだけど、体を動かさない、いわゆる頭脳活動にもこうした考え方は通用するはず。
それをちゃんと作っていこうよっていう意味もまた、eスポーツ科学プロジェクトやOWLSに込められていると思いますね。そもそも「ゲームを今日対戦する」みたいな狭い意味じゃなくて、eスポーツというのは、デスクワークなどの現代人の頭脳活動の代表例なんだよね。だって、動作がこうじゃん。
eスポーツの話題では「1日に十何時間も長時間プレーして不健康だ」と良く言うけど。じゃあ俺はこの動作を1日何時間やってるのかって(笑)
下手したら、研究者はeスポーツ選手よりも長くやってるかもしれないです。でも、「研究するな」とはなかなか言わないですよね。
インタビュアー:
はい(笑)
松井先生:
現代人の頭脳活動というのは、eスポーツに代表されるような物理世界とサイバー空間に跨がった存在なわけで。
そうした理解のもとに、eスポーツを対象にしたスポーツ科学的な取り組みというのは、実は現代人の頭脳労働とか頭脳活動を総合的に支援する方策の開発研究に繋がってくるものであると。これは大学のためにはもちろんなるけど、そこにとどまるものじゃない。この点が産学官連携にも繋がりやすいっていうことがまたあるという感じですね。
インタビュアー:
次は最後の質問です。松井先生の目線から今の日本や世界のeスポーツ研究っていうのは、大体どこまで進んでたりするのかなって。ちょっとアバウトな質問なんですけど。
松井先生:
えーとね。多分本当の意味でのeスポーツ研究っていうのが、本当にない状態だと思います。
インタビュアー:
へーそうなんだ
松井先生:
今までにあった関連の研究というのは、「1人でゲームをプレーすることの効果」に関するもの。これは世界的に実はたくさんある。
一番有名なのは、もう20年前、2003年の『Nature』に、英語ではアクションゲームって表現するんだけどいわゆるFPSゲームを1日1時間、週5日プレーすると、認知機能が高まるっていう研究があるんですよ。
インタビュアー:
へえ
松井先生:
だから適度にeスポーツをプレーするっていうのは、そのタイトルのプレーに必要な認知能力を高めるということは、実はよくわかっている。
だけど、逆にそれしかわかってないっていう感じ。
eスポーツというのは結局、そのゲームの「対戦」を楽しむということだよね。対戦すると、フィジカルスポーツのような絆が育めるのかとか、あとはチーム戦をするときの「チームプレー」がどういうふうに発揮されるのかとか。「対戦」とか「チームプレー」という要素が、eスポーツに「スポーツ」というワードが付される意味だと思うんだけど、そこに関する研究というのが日本でも世界でも本当にない状態ですね。
インタビュアー:
そうなんだ
松井先生:
だから、スポーツ科学者としてそこに切り込む。
私は体育系だけど、体育の人がeスポーツ研究をやることの意味は、「スポーツ性って何なのか」という問いに本気で取り組めることにあって、スポーツ全体のスポーツ性も示すことになるっていう波及力があると思います。そういう観点でやってる研究は本当にないと思います。
インタビュアー:
ほう
松井先生:
こういう視点は、多分スポーツ科学者じゃないと持たないんじゃないかっていうことはあるので。じゃあ俺たちがやるしかないだろうと。やる人になりたいよなっていうところが一番の意欲ですね。
インタビュアー:
そういったバックグラウンドみたいなものを持ってる人はあんまりいないって感じですよね。松井先生みたいにスポーツをやってて、eスポーツへの興味もあってみたいな。
松井先生:
いないんだろうなって感じですね。
一方で、eスポーツプレイヤーが”1人で”のプレーをどう上手くするかみたいな研究は世界にあります。
例えば、事前に運動しておくと、20分後のリーグオブレジェンドのプレー中の倒した敵の数が増えるとか、ミスの数が減ると報告されています。
あとは今、いわゆる脳科学系では、BMIって知ってます?ブレインマシーンインターフェースっていう脳を直接刺激しようっていう。イーロン・マスクとかも取り組んでる、人と機械を一体化するような研究分野。
インタビュアー:
あーはいはい
松井先生:
最後は、リアルサイボーグみたいに人間が進化していくんじゃないかみたいなね、議論があるとこなんだけど。TDCSっていう電気で脳を刺激するヘッドホンみたいな機械を使って、筋肉に指令を出す運動野を刺激しながらFPSの練習させると、上手くなりやすい。そういう研究はされてますね。
でもそれっていうのはやっぱり、「スポーツとして」というよりは、結局「ゲームのうまさをどう高めるか」みたいなことになっていて、「スポーツ性」を示してるっていうことではないというところがある。
ただ、この「スポーツ性」みたいな話って、結構このくらい長く話さないとなかなか伝わりにくいのは事実。だからこそ、そこをやってる人は本当にいなくて。
「ゲーム研究」もしくは、「脳科学の一部としてゲームを使っている」みたいな研究がされている。そういうのが現状かなと思います。
インタビュアー:
そうなんですね
松井先生:
実際、今話したような、「スポーツ性」みたいな話を、eスポーツなしでしようとすると、全然興味を持てなくない?
インタビュアー:
たしかにそうですね
松井先生:
この話って結構スポーツ科学のなかでも玄人的な話なんだけど、「eスポーツ」を話題にすると、誰もが議論に参加できる話題に一気に生まれ変わる。そういう魅力がeスポーツにあるなっていうことを強く思います。
こうしたことから、スポーツ科学が本当の意味で現代人に、いわゆる体育関係者だけじゃない、多くの人に役立てる時代がいよいよ来るんじゃないかっていうことを私は期待しています。
インタビュアー:
じゃあその一端を、我々OWLSがデータとしても担えれば良いなと(笑)
松井先生:
いや本当ですね。まず実験には協力してくれてるし、こういう記事のまとめなんかもとても良く協力してくれているので感謝です!(笑)
いろんな意味で、今後もますますよろしくお願いします。
インタビュアー:
ありがとうございました!
これで第1回を終了します!
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