映画『星の子』芦田愛菜主演
この作品の内容を思い出そうとするだけで心が痛くなります。芦田愛菜の主人公の心に寄り添った抑えた演技が素晴らしいです。「タロウのバカ」「日日是好日」の大森立嗣監督・脚本。今村夏子原作。TOHOシネマにて鑑賞。
ストーリー
ちひろ(芦田愛菜)は中学3年生。父親(永瀬正敏)と母親(原田知世)は愛情たっぷりにちひろを育てている。ちひろもそんな両親が大好き。
両親は病弱だったちひろの体調が改善した事をきっかけに、「特別な生命力を宿した水」を販売している新興宗教にのめりこみ、家の中も宗教のグッズで溢れている。仲の良い友達もいて、一見平凡な学校生活を送るちひろであったが、赴任してきた数学教師(岡田将生)に淡い恋心をいだくようになり、、、、
映画の冒頭で、赤ちゃんだったちひろが皮膚疾患と体調不良で泣き叫び、苦しんで、両親が途方にくれる様子が描かれます。
病院で治療しても良くならなかった病気が「特別な生命力を宿した水」で治ったことで、新興宗教にのめりこむ。
子供を思う気持ちが深く、病気が治ったことでその宗教を信仰していった状況が良くわかるように描かれていました。
ちひろの両親はおだやかな優しい人たちです。
強く他人を勧誘したり、物を売りつけたりするシーンはありません。
両親は「特別な水」を含ませた白い布を頭にのせて、「おかえりなさい」と優しい笑顔でちひろを迎えます。
布は落ちないように、ちょっとピンでとめてあります。
どう見ても異様な光景なんですが、その両親のもとで育ったちひろは、反抗することもなく、一緒にご飯を食べおだやかに会話します。
ちひろには5歳年上の姉がいるのですが、家を出て帰ってきません。
両親は「特別な水」の購入はもちろん、教団のマークの入った自動掃除機など沢山のグッズ購入のため、生活は豊かとはいえません。
ちひろの修学旅行の費用もおじさん(大友康平)が負担しています。
心配したおじさんは、ちひろの進学する高校はちひろの家から遠いので、おじさんの家から通学しないか、と言ってきます。両親からちひろを離すために。
でも、ちひろは断ってしまいます。「私は大丈夫」と。
中学3年生のちひろは、両親が信仰している宗教団体の良くないニュースなども知っていて、もうその宗教の異様さにも気がついているのです。
両親の事が本当に大好きで、両親の事も宗教の事も否定したくない。
暗闇のなかでの両親の宗教行為を
「気持ち悪い」
と憧れの先生と友達に言われ、何も言えずに逃げるように帰っても、
翌日にわざわざ「あれは私の両親」だと告げるちひろ。
知らないふりもできたのに、本当に愛情をもって育てられた人。
大好きな両親を悲しませたくない。
母親を演じる原田知世のよどみない優しい笑顔が切ないです。
ちひろと両親が自然の中で流れ星を見るシーンがあります。
父親が何気なく「(ちひろが通うことになる)高校は遠いなあ」とつぶやきます。
父親は、ちひろは別のところに住んで距離をおいた方が良い、と思っているかのようでした。
自分たちは、ここまで来たら後戻りできないけど。
ちひろは教団から離れて自由な生き方をした方が幸せかもしれない。
もし、そう思っていても決して口に出すことはできない思い。
映画は答えを出していません。
この作品はずっと心の中に残ります。