ショートショート。のようなもの#26『閑古鳥』
「あぁ…また産まれてしまったか…。」
うちの定食屋ではいつからかお客さんが来ない日が続くと〝鳥〟が産まれるのだ。
そう、まさに〝閑古鳥〟というやつ。
どうやら厨房の隅のほうに巣を作っているらしく、閑散期になるとチュンチュン…チュンチュン…と産声を上げる始めるのだ。
まぁ、もっとも私が父から継いだこの店が賑わっているところを私は見たことがないのだが。
だから、この蜘蛛の巣だらけの店内にはいつも30~40羽の閑古鳥がダラダラと飛び交っている。
そういう意味では、他の店にはない賑わいを見せているのかもしれない。
閑古鳥の見た目は、まん丸だ。
まるで大きなぼた餅から産毛が生えているかのような風貌のそれは一応、鳥ということだけあって左右に羽根もついている。
白や黒、そして、その中間のグレーっぽい色など三種類くらいに別れている。
ぼてっとした。そんな擬音がピッタリのまさに働かない閑散さが故に産まれた生き物といった印象だ。
こいつらは、お客様が一人入ってくると一羽が換気扇に吸い込まれるようにして消えていくシステムとなっているようだ。
出生率は毎日5.6羽のペースだから、流行ってないうちの店内には閑古鳥がどんどん増殖していくわけだ。
むろん、エサなど与えなくても彼らは閑散とした薄暗い店内の空気中に浮かぶ「タイクツ」や「シーン。」や「…。」などをチュンチュンと啄んでいる。
なので、暇になればなるほど彼らは増殖する。
それを防ごうと我々夫婦は、いつも喧しく言い合いをして店内の〝閑古鳥〟を弱らせようと躍起になるのだ。
きょうもきょうとて、妻と中身のない口論をしていると、ガタガタと軋み音を立てながらの立て付け悪い戸が開いた。そして、一人のサラリーマン風の男が入ってきた。
すかさず一羽の閑古鳥が換気扇に吸い込まれていく…。
妻が慣れない口ぶりで席に案内しようとしたら、そのサラリーマン風の男はスッと名刺を出してきた。
「実は私こういう者でして…」
見るとそこには、なんたらかんたらという名前のテレビ局の名前が書いてあった。
そして話を聞くと、どうやら〝閑古鳥が生息する定食屋〟ということで取材をしたいというのだ。
こんな願ってもない大チャンスを逃すまいと私たちは、迷わず首を縦に振った。
数日後、カメラマンやADといった沢山のクルーをつれたタレントがやってきて小一時間のロケをした。
そして二週間後。そのロケの様子がテレビ番組で放送されてからというものは、今までの閑散がウソかのように店が流行り流行ったのだ!
…と言いたいところだが、それ以降に来る客来る客は次々にガミガミ!ガミガミ!と〝クレーム〟を訴えて頭から湯気を出しながら店をあとにするから困ったものだ。
それもそのはず、放送があった翌日の開店直後に長蛇の列ができたせいで昼前には、店内にはもう一羽の〝閑古鳥〟もいなくなっていたのだ。
あれだけいたすべての〝閑古鳥〟たちが吸い込まれていってしまった。
あとに残ったのは、油でベトついた換気扇に絡み付いた閑古鳥の抜け落ちた大量の羽毛のみ。
シーン。
………。
期待を裏切られた私は、がっくりと肩を落としながら、ふと今まで閑古鳥の巣があったところに目をやった。
すると、そこにはまた一羽の〝閑古鳥〟の雛が孵っていた。
「チュンチュン…チュンチュン…」
そして、その隣の卵を見た我々は思わず目を丸くした。
何故なら、そこにはテニスボールほどの小さな女の赤ちゃんが産まれていたのだ…。
「…え?…ちょっとあなた、なによこの子。なんでこんなところに女の子が産まれてるのよ?これ、閑古鳥じゃないわよね?女の子よね?」
「ん~、そんなこと私に言われてもわからないよ…。
なんだこの子…あっ!ひょっとしたらこの子、恐らくだけど、ここ数日の〝クレーム〟から産まれちゃったんじゃないか!?」
「…クレームから?」
「そう、きっとそうだよ!そうに決まってる。ガミガミ!ガミガミ!が溜まりすぎて産まれた可愛い可愛い〝苦嬢〟なんだよ。」
「きっと、気の強い子に育つわね。」
~Fin~