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ショートショート。のようなもの#50『尿管宝石』

「え?先生、今なんとおっしゃいました?尿管結石ではなく?…尿管宝石?…宝石!?」
「そうです。先程の精密検査ではっきりしました。あなたの尿道から排出された石の塊は尿管宝石、つまりダイヤモンドです」
「…ダ、ダイヤモンド?いや、そんなことが?」
「もちろんあり得ます。同じ石なんですから様々な種類があって当然です」
「いや、しかし…」
「初めてですから疑うのも無理はありませんが、事実として今、目の前に存在するのですから間違いありません」
 私は、夢でも見てるのかと思い呆然としていたが、ふと目を落とすと見紛うことなき尿管宝石が、窓から差し込む木漏れ日を受けてキラキラと輝きを放っていた。
「…患者さま?大丈夫ですか?どうされます?」
「…は、はい?」
「いや、この宝石はどうされますか?お持ち帰りになられますか?それとも、こちらで処分致しましょうか?まぁ処分すると言ってもこんな高価なダイヤモンドを捨てるわけにはいかないので、バイヤーへ売って換金することにことになりますが…」
「いや、それなら持って帰ります!私が責任を持って持って帰ります!だって僕の体から出た宝石なんですから!」
「あ、はい。かしこまりました。それではどうぞお持ち帰りください。お大事になさってくださいね」

 私は病院を出ると、すぐに近所のファミレスに入り尿管宝石をテーブルの上に置いて写真を撮りオークションサイトに出品してみた。
 すると、瞬く間に目玉が飛び出そうなくらいの値段に跳ね上がった。
 私が知らなかっただけで、この尿管宝石という品はこんなにも人気がある品だったのか。
 まだ疑いの気持ちを持ちながらも、目の前の誘惑に抗うことが出来ずに、結局、軽自動車が1台買えるくらいの額で落札された。
 これに味を占めた私は、それからの生活が一変した。
 不摂生をして水分をあまり取らずに月一ペース次々と尿管宝石を製造しては排出し続けたのだ。元々、宝石が出来やすい体質だったと見えてどんどん生産することができた。
 そして、次々と高値で販売していき私の生活は贅沢なものとなった。テレビや雑誌にも取り上げられて日本中にその名を轟かせた。
 街を歩いていても、顔をさして「あ!宝石おじさんだ!」「いつも応援してます!」「今度、彼女にプロポーズするんです!予約出来ますか?」などと声をかけられるのが日常茶飯事となった。
 
 そんな生活が3ヶ月ほど続いたある日。
 私は、テレビの生放送へ出かけようといつも通りにマンションを出た瞬間、背後から何者かに羽交締めにされたかと思うと、口に布を当てられて何かを吸わされて意識を失った。

 気がつくと、私は薄暗い倉庫のような一室の床にへたりこんでいた。
 宝石強盗の窃盗団に身元がバレて、港町の倉庫に連れて行かれて監禁をされていたのだ。
 もちろん奴らの目的は、私から排出される尿管宝石だ。
 私は、何人もの男に囲まれながら、無理矢理おしっこを強要させられた。
「そ、そんな見られてたら出せません…!」
「やかましわい!早う出さんかい!いつまいでもお前のもんを見ときたないじゃ!早うせい!」
 どんな脅し文句なんだ。と、心の中でツッコむ余裕はなかったが、尿管宝石の1つや2つ出して命が助かるなら…と振り絞ろうとしても全く出てくる気配がない。
使いきってしまってのだろうか?出て来ない。
「…すみません、やっぱり出ないです」

 この声を聞いて痺れを切らせた窃盗団のボスが、黒い革張りのソファから立ち上がり若い衆の間に割って入って来て、私の頬を思い切り殴った。
 顔面が外れそうな衝撃を受けた私は、そのまま吹き飛んだ。
 頭がくらくらした。頬もじんじんする。私は戦意喪失して冷たいコンクリートにへたりこんだ。
 あぁ、私はおしっこが出なかったばかりにこのままでは殺されるのか…。
「…頼む、命だけは取らないでくれ、助けてくれ…」 そう訴えかけようと口を開いた瞬間。
 カラン…。と音がした。
 あのときの音だ。尿管宝石が初めて出たときの、あの透き通るような高音だ。
 不思議に思いながら、ふと目を落とすとそこには、僕の黄ばんだ歯が落ちていた。
 なんだ、ただの勘違いか。殴られた衝撃で歯が折れただけか…と、がっかりしていると、ボスが私の歯を拾いあげて言った。

「ほー、これは素晴らしい!なんてキレイな歯石なんだ。この歯石は、紛れもなく最高級のサファイアだな」

                ~Fin~

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