理想の恋人【未来予想短編小説】
今日は友達と遅くまで飲んできて、ちょっとほろ酔い気分だ。
明日は土曜日だし、
と思って飲むといつも以上に盛り上がってしまった。
「ただいまー」
「おかえり。遅かったじゃん」
彼氏の純平はちょっと面白くなさそうな顔をして玄関まで出迎えてくれた。
「うーん、ちょっと飲みすぎたー」
お店を出た時はほろ酔い気分だったのに、帰り道歩いたせいで酔いが回って玄関でぐったりした。
「ちょっとそこで寝ないで服着替えてベッド行って」
「うぅ~」
ぐったりしてる私をひょいっと持ち上げてベッドまで運んでくれた。
「ほら、お水のみな」
「ありがとう~」
純平は本当に優しい。
35歳にしてやっと理想的な彼氏を半年前ゲットした。
服を脱がせてくれて、パジャマに着替えさせてくれた。
「化粧落とさずに寝るなんてありえないよ~」
そういいながら、化粧落としシートでメイクを取ってくれた。
その後スキンケアまでやってくれて、こんないい人他にいるだろうか。
「今日の飲み会って男いたの?」
間もなく眠りに入る現実と夢のはざまで純平が私に聞いてきた。
「男~? いたような、いないような。。いないような・・・いたような。。。」
「今日友達と飲み会だったんじゃないの~?聞いてた人は全員女子だったのに何で男いる記憶になってんの?」
「えぇ・・・?わかんない・・・。なんか隣の席のサラリーマンが・・・zzzz」
「ちょっと秋帆!」
純平は真相を聞き出せなくて不満そうな顔をして秋帆の隣で寝た。
ー翌朝。
純平が冷たくなっていた。
「純平?」
「・・・」
「・・・・ごめんね」
私はそうつぶやいた後、純平の脇の下にある充電口に充電器を挿した。
”充電完了まで50分”
純平が電池切れになった。
そう、私の彼氏はロボットだ。
一週間に1度たった50分の充電をするだけで本物の人間のように温かくなり、会話もできるようになる。
良い時代になったなと思う。
私は結婚したかったけど30歳の時諦めていた。
何度も恋愛で失敗して、もう疲れていたからだ。
別に理想を追い求めていたわけではないけれど、
付き合う相手はいつも何かしら問題があった。
だけど、半年前ついに本物の恋愛が出来るAIロボットが日本で発売された。
まだ世の中で偏見は多いけど、ロボットだと言わなければほとんどわからないレベルの時代になってきている。
皮膚のレベルも人間だと思うほどに精巧につくられている。
声だって、ロボットの声じゃない。
本物の人間の声だ。
ハグしたときのぬくもりだって。
なんならこのロボットはセックスさえも出来る。
もう私が生身の人間と付き合う理由が見当たらなくなった。
一つ悲しいのは、ご飯を食べる機能が付いていないこと。
一緒にレストランにいっても、ご飯を食べるのは私だけだ。
いつも店員さんは不思議そうに純平にもオーダーを取ろうとするが
「僕は食べられないので」
と答えている。
一緒にお酒を飲みたいけど、それもかなわない。
だけど、ほろ酔いモードというのがあるので一緒のテンションで会話することだって可能だ。
だけど本当に1つ悲しいことがある。
それは、充電を切らしてしまうと純平の記憶が1からになってしまう事。
久々にやってしまった。
完全に充電が切れなければ、記憶は消えない。
しかし、充電が0%になった瞬間に私との思い出がリセットされる。
そしてまた、設定しなおしが必要になる。
今回記憶を消させてしまったのは3度目だ。
最初に消えた時は本当に悲しかった。
今回ももちろん悲しい。
思い出が増えれば増えるほど、全てが無かったことになるんだから。
また自己紹介するところから始まる。
名前はいつも”純平”にする。
私が告白できなかった中学の時好きだった人の名前だ。
告白できなかった事を本当に後悔している。
だからその名前にした。
性格も細かく設定出来る。
いつも”とてもやさしい”・”少しだけやきもちを焼く”の設定をしている。
他にも細かく色々するけれど、毎回同じだ。
記憶が完全に0にならない方法も実はある。
コネクトしているアプリに+500万円を出せば、永久に記憶が消えないモードにできる。
しかし、私はここまでハマるとは思わなかったので初期投資の100万円でなんとか半年やっている。
「はじめまして」
純平の充電が完了した。
「はじめまして」
次こそ、
次こそはずっと記憶を無くさせないからね。
【終】
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