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あの頃

タイムスリップしたり、人格が入れ替わるような内容の物語がどうも苦手だ。

タイムスリップはつまり時間の流れに逆らう事。人格の入れ替わりはこれまでの自分の人格形成に関わったすべての物事に対して逆らう事。すなわち自然の流れに逆らうことを夢見るほど「あの頃」に戻りたい、違う自分になりたいと願うような願望自体に嫌悪感がある。

多くの人が人生の中でそんな願望を持ったことがあるからこそ、こういう物語に需要があるという事はわかっているが、もし自分が「過去に戻れるとしたらいつからやり直しますか。」と、本気で聞かれたとしても絶対にタイムスリップしてやり直しなんてしたくない。本当に夢の無い人間で困る。でも仕方ない。本当に戻りたくないんだから。

これまでの人生で起きたことすべて、自分なりに常に正面から向き合ってきたつもりだし、気楽に適当にその場しのぎで流してやり遂げてきたというものが性格上殆どない。スローペースでも、ちゃんと一つ一つ大変で苦しくて沢山考えて沢山悩んだ。(もちろん過去に戻りたいという願望のある人が、今まで何も考えてなかったとか努力してこなかったという訳ではないが。)そんな積み上げてきた苦労をもう一度味わったり、なかったことにするなんて御免なのである。苦労を味わったり悩んだりするなら、これから起こる新しいことに対してが良い。頑張っても、たくさん考えても、世の中予定通りにいかない、理想通りにいかないようなことばかりだが、「偶然は必然」という言葉を本気で信じている。というか信じ込むようにしている。予測していなかったどんな嬉しいことや悲しいこと、失敗、後悔にも、必ず意味がある。多分。絶対。というか、過去のたくさんの偶然をどのように意味のあるものにしていくかというのが現在、そして未来なのではないだろうか。キングコングの西野が近畿大学のスピーチで「未来は変えることはできないけど過去は変えることができる」っていう言葉を残していた。どんな失敗や挫折もそこで止まってしまえば失敗のままで終わってしまうけれど、そこから成功するまで続けてしまえば、生きぬいてしまえば、失敗体験でさえも成功を彩るものとなる。これは自分の中で結構コペ転で、初めて聞いた時からずっと要所要所で頭をよぎって出てくる。何が成功で何が失敗なのかもよくわからないような、一概に言えないような世の中だが、何に対しても「やりきること」、「考えつくすこと」、「想いつくすこと」が後悔しないための唯一の方法であるようにも感じる。断ること、断ち切ること、やめる勇気も時には大切だが、何かを断ち切るときは、潔く切るための確固たる信念が必要である。その確固たる信念を作るためには、やっぱりいろんなパターンに進んだ自分を想像して、考え尽すしかないんだろう。

人生とは不思議なもので、ふとした瞬間に「あの頃」の私を「現在」の私が回り回って救い出しているような時がある。

最近初対面の大人の人と何の苦も無く自然に話せている自分にふと気づいた。小学生の頃激しい人見知りのせいで大人の人と話すことが苦手で、大好きで話したい人の前でも他の子みたいに自分から近づいて行ったり目を合わせることすらできなくて、いつも端っこでうじうじしてた自分を救ってあげたような気分になれた。少し泣きそうになった。

ダンスを始めたころ、ダンスが本当に嫌いだった。行く時間になるとおなかが痛くなるくらい。先生に体が硬いから向いてないといわれたこともあった。でもなんか悔しくて、とりあえず続けてたら、もう15年もやってた。ストレッチも15年欠かさず続けてたらもうそれはそれは体が柔らかくなった。

どれだけ今の自分が嫌いでも、どれだけ今が変わりたくても変われないというもどかしい時期だとしても、生き続けていれば、自分を信じ続けていれば、いつか思わぬ瞬間に自分で自分を救うことができるのだと。つまり、人生長く生きれば生きるほど、自分の過去を一つ一つ救い出す瞬間に立ち会える可能性が多くなる。ああ、長生きしよう。こんなこと初めて思った。今までずっと、そんなに長く生きられなくていいと思ってた。俳優の瑛太がPOPEYEの『二十歳のとき、何していたか』特集で「カート・コバーンやジム・モリソン、尾崎豊のように、27歳までに伝説を残して死ぬんだ!っていつも思っていました。だから毎日酒を飲んで、脳内は常に混沌としていましたね。」「二十歳のころ、27歳までって生き急いでいるかもしれないけど、34歳の今でも生きてる。最近は演じることが楽しい。」って言ってた。この気持ち、すごい分かる。思春期だな。

自分が変わっていくことって、今まで恐怖でしかなかった。違う自分になること。環境が変わること。いろんな事に耐性がついていくこと。できることが増える代わりに限界も見えてくること。だから大人になんて一生なりたくないって思ってたけど、自分が変わっていくたびに過去の自分を一つずつ、少しずつ救っているのだと思ったら、なんだか良いことのように思えてきた。

「変わり続ける。変わらずにいるために。」by サチモス

タイムスリップ系苦手って言ったけど、『プロポーズ大作戦』は当時大好きだったな。(なんなんだお前は)

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