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日記|ほわほわな想い出


「ツキノは、なんでいつも寂しそうなの?」

唐突すぎるチアキくんの言葉が、わたしの小さな胸をぎゅっと締めつけた。

小学六年生の時に好きだったチアキくん。
すごく優しくて、アイスホッケーをやっていて、クラスで一番小さかったわたしの2.5倍くらいはある大きな身体の男の子だった。

ああ、わたし寂しそうな顔してるのか。しかも、いつもって。知らなかったな。ただの根暗な少女じゃないか。
でも、チアキくんがわたしを見ていてくれたってことがすごく嬉しかったのだ。

チアキくんと両思いだと噂になっていたマスミという女の子がいた。マスミは頭が良くて明るくて、すらりと背の高い、わたしとはまるで真逆な女の子で。
わたしが見ていても二人はすごくお似合いだったし、フラれるのは目に見えていたからね。告白なんてしなかった。わざわざ傷つきたくないもん。
でもね、根暗な少女は、卒業するまでずっと好きだったんだよね、チアキくんのこと。

中学も一緒だったけど、クラスが別々になってしまったから、そのまま話すこともなくなって。
わたしは違う男の子に恋をしたし。チアキくんにも好きな人がいるようだった。
気がつけば、小さな恋心は淡く儚くほわほわ〜っと消えていなくなっていた。あんなに好きだったのに、廊下ですれ違っても何も思わなくなってしまったんだもの。ああ、あの恋はちゃんと終わったんだなと思った。

中学三年になって塾に通い始めたんだけど。
そこでまたチアキくんと同じクラスになった。なんとなく話すようになって、家も近かったから塾が遅くなった日とかはよく送ってくれたりもして。相変わらず優しいなと思いながら、友達としてとても好きだった。

無事受験も終わり、進路も決まった頃。
塾からの帰り道で、チアキくんに告白された。

「好きなんだけど。付き合ってもらえる?」
わたしはちょっと吹き出しながら、
「遅ーい。わたしの好きは、小学校の教室に置いてきちゃったよ。」
今は友達だと思ってる。と、正直に伝えた。
チアキくんは、マジか〜と天を仰いだ。そして少し笑ってくれた。
それから家まで、たぶんどうでもいい話をしながら帰ったと思う。
わたしの家の前で、チアキくんが「あー明日からまた普通でいいから。」と、ちょっと気まずそうに片手をあげる。帰ろうとしたその時「待って」と、チアキくんを引き止めた。
ずっと聞きたかったことがあったんだ。

「あのさ。わたし、まだ寂しそうかな?」

一瞬、ん?って顔をしたチアキくんは、すぐにハッとして少しだけ柔らかい表情を見せた。

「もしかして気にしてた?俺の言ったこと。」

「うん。なんか…気にしてた。」

「俺さ…ツキノの家庭の事情とか色々知ってて。近所の人と親がしゃべってるの聞いて。それから気になってさ、ツキノのこと見てた。なんかあんな小さいのに、色々あって可哀想だなって。」

あーそうかそうか。わたし、可哀想って思われてたんだ。ちょっぴり傷つく。

「でも、あの時はわかんなかったんだけど、あの可哀想って気持ちって、もしかしたら好きってことだったのかもなって。」

ん?質問の答えになってないんだけど。と、言いながらも、なんだか嬉しかった。

「いやでもさ、あの頃はチアキくんマスミのこと好きだったでしょ?」

いまさらそんなこと確かめても意味なんてないのに。それでも確かめてみたくなったんだよね。あの時のわたしは。

「あーそんな感じになってたね。でもそことは別なとこでツキノを気にしてたのは本当だよ。」

「ふーん。そうなんだ。」

「なあ?俺フラれたんだよね?」

「うん。そうだよ。」

ふたりで笑った。

で、さっきの話だけど。と、チアキくんが真面目な顔で言った。

「今のツキノは、寂しそうではないよ。でも、なんか、苦しそうなんだよ。」

そう言って、とぼとぼとチアキくんは暗闇の中に消えていった。あの頃よりずっと大きくなった身体を小さくまるめて。

苦しそう。そうか、あの頃からわたしずっと苦しかったのかもしれない。
寂しさに埋もれて、苦しくて苦しくて。

わたしは恋をすることよりも、自分を、なんとか今の自分を生きようと必死だった。自分を生きることをあきらめてしまわないように。

心のランタンに灯された火を消さないように。



やっぱり秋ってエモーショナルな季節なのね。


ああ、懐かしかったー。
ほわほわした想い出ってなんかいいよね。
わたしの頭の中の記憶装置もなかなか優秀だ。チアキくんとの思い出はたったこれだけなのに、鮮明に思い出すことができた。わたしの中の初恋的なやつは、チアキくんで間違いないと思っている。元気かな。元気だといいな。


ほわほわな想い出、ずっと大事に持っていたいね。
あしたのあなたも幸せでありますように。


#賑やかし帯

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