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『明日、私は誰かのカノジョ』になぜ共感が集まるのか?女性限定読書会から見えてきた「地続きの世界」

 読書会とは、本を通じた感想・意見交換を行う催しのこと。今回は人気コミック『明日、私は誰かのカノジョ(以下、明日カノ)』を課題本に、読書会を開催した。

『明日、私は誰かのカノジョ(をのひなお )』
 章ごとに異なるヒロインが描かれる、オムニバス形式のストーリー。第1章の主人公・雪はレンタル彼女として生計を立てる女子大生。理想の彼女を演じる雪に客の男性は魅せられていくが、理想的に見えるのはあくまで“仕事”だから。歪な疑似恋愛の中で揺れ動く男女模様を描いたストーリーである。
 2章目以降もそれぞれの痛みやコンプレックスを抱えた女性たちを主人公に物語が進んでいく。2022年3月時点で単行本の累計発行部数は300万部を突破。

 会場は、本作の舞台でもある新宿歌舞伎町の近く、新宿ゴールデン街「月に吠える」。忌憚ない意見が交わされるよう、参加者は「女性限定」とした。参加者は元美大生、元レンタル彼女、非正規雇用で働く方、地雷系ファッションが好きな大学生、元風俗嬢など7名。ゲストには、ホストクラブにハマる女性たちに取材した『ホス狂い』などの著書がある作家・大泉りかさんをお招きした。

 以下、当日の様子をレポートする。
※一部ネタバレを含むためご注意ください!

ヒロインたちは読者の痛みを抱えている

読書会の参加者たち。ゲストの大泉りかさん(左から2人目)

 まずは参加者の自己紹介から読書会はスタート。そして一人ずつ心に残った主人公を挙げていった。

「ゆあてゃ(ホス狂いの女子)が好き。自分も彼女のようないわゆる地雷系のファッションが好き」

「ルックスに強いコンプレックスを持ち、レンタル彼女でお金を稼いで整形を繰り返す、たくましい彩が格好いい」

「雪と同じく自分もレンタル彼女をしていたことがある」

「40代で水商売を上がり就職活動をするも、仕事が見つからず、スナックに落ち着く菜々美には共感した」

 などなど。キャラクターと経験や境遇や立場、趣味嗜好などが同じだという参加者たちのエピソードも多く共有された。

『明日カノ』には多様なヒロインが登場するが、感情移入した人物としてその多くの名前が挙がった。ホス狂い、レンタル彼女、整形など、登場人物たちはマイノリティとして括られがちだが、彼女たちが抱える「一人の女」としての悩み・苦しみは普遍的で、我々が生きるこの街と作品の世界が地続きであることを思い知る。

 同作のキャッチコピーは「ありきたりの地獄をリアルに描くビターラブストーリー」であるが、読者の持つ痛みをまさに主人公たちが抱えているのである。


共感されなかった唯一のキャラクター

 一方で、読書会の最後まで、ただの一度も言及されなかったヒロインがいる。女子中学生・心音だ。彼女は男性配信者の「推し」を持つ熱狂的なファン。ふと心音の話題が出たとき、参加者たちの多くが「あの子はあまりにも幼稚だよね」という評価だった。推しを盲目的に信仰していたかと思えば、スキャンダルが発覚するとアンチへと変わる様子が独善的であるという声もあった。

 本作中でも際立ってリアルなキャラクターなのだが、むしろそこが生々しく、共感に至らなかったのかもしれない。ある意味で特殊なヒロインである。


現代ゆえの病を抱える主人公たち

 また、参加者から「主人公はみんなどこか病んでいる」という発言があった。なるほど、たしかに彼女たちは、現代の病を患っているように思う。毒親、パパ活、整形、ホス狂、風俗、スクールカーストなど、いずれも社会問題になっている現代の病であり、同時にキャラクターのアイデンティティにもなっている。

 そして同じような病は私たちの、一見すると健全に見える社会ーーそれは会社、学校、家庭、恋人、友人関係、SNSなどのなかにも、当たり前のように潜んでいる。満たされない孤独、承認欲求、何者かになりたい自分、現実からの逃避願望など。主人公たちは現代ゆえの病にどう向き合っていくか、それは読者の抱える問題でもあり、だからこそ共感へ導くのではないか。

 盛り上がったのは、「実生活で嫌悪感を覚えた男性」の話題。作中で描かれている、女の子が好きな肌の汚い中年男性、社交辞令を本気にしちゃうモテない男、LINEでのおじさん構文などに対し、「女性から見て嫌悪感を覚える男性がリアルに描かれている」との声。

 そこから参加者たちの実体験として、痴漢が趣味の男や、「風俗嬢は俺のテクで気持ちよくなれてお得だね」と勘違いする風俗利用客などが挙げられ、驚きや共感の声が上がったのだった。これも女性限定の会だからこそかもしれない。


読書会を終えて

 作品に触れるとき、ただなぞって楽しむだけで、じっくり味わうことが大してなかったと気づかされた。ひとつの作品について意見を交わす読書会は、作品の魅力を再発見する良い機会だ。ゆっくりと道を歩いて、あるいは立ち止まって景色を楽しむようなものである。しかもそこに誰かがいてくれるのなら、面白くないわけがない。

 読書会と、『明日、私は誰かのカノジョ』をぜひ体験してほしい(文 細畑)。

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