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川流
重大な2つの選択を迫られた私は、そのどちらでもなく、ただ川に流れることを選んだ。その川は3つの県境をまたいでおり、水流は緩やかである。私は川のどこから流れ始めるかが非常に重要なことだと思ったため、最適な場所を入念に探した。幾つかの候補の中から、すすきが生い茂り、静かで人の少ない場所を始まりとした。出発する時間は夕方と決めている。それは考えるまでもなく明らかに思えた。決定事項を手記に書き込み、寝床についた。決行は明日である。
翌日、朝早くに目を覚まし、コーヒーを淹れ、トーストを食べた。もし昼に食欲がわかなければこれが最後の晩餐となるだろう。そんな事を考えながら、10分かけてトーストを食べた。それから夕方まで文字通り時間を潰した。もし私に日記をつける習慣があったならば、今日はなにもない一日だったと書くだろう。そんな時間を過ごした。
スケジュール通りに川に着いた。すすきをかき分け、ついに水面が見えてきた。私は靴を脱ぎ、川とは逆の方に向け、キチンと揃えておいた。靴下を履いたまま、右足から川に入った。冷気が足を通して全身に伝播し、少しの間動きが止まった。少しすると慣れ、左足をいれ、同じように少しの時間待った。川の中央まで行き、水の流れゆく方を向かい立ち止まった。その向きはちょうど夕日の沈む向きであった。計算していたわけではない、偶然の絶景に自然と笑みが溢れる。夕日を楽しんだ後、ついに私は流れることにした。前から倒れるか、後ろから倒れるか、些細な選択だがおそらくこれが私のする最後の選択となるだろう。私は決断し、体を支えていた力を抜いて、水と接触する。水が弾ける轟音が鳴った後、全身は冷気に包まれ、水の音はボコボコと鈍い音へと変わった。反射的に閉じた目を開き、ぼやけた視界の中で、私は赤く染まる空を見た。