都市に侵入する獣たち―編集部より
2023年は、OSO18をはじめ街中に出没するクマによる被害が大きな話題になりました。本来「自然」の領域にいるはずの猛獣が人間の暮らす領域で行動するようになったのはなぜなのか、その理由に多くの人々が関心を寄せています。
本書は、アメリカ・カリフォルニア大学で環境学を教える著者が、アメリカの都市が「奇妙な野生生物保護区」になった理由を歴史的・科学的に振り返る『Accidental Ecosystem』(2022)の翻訳です。訳者陣は、長年京都などで野生動物の研究、保護と駆除に取り組んできた動物学者です。
まず、大都市となった場所がかつてサンゴ礁やイエローストーン国立公園よりも豊かな生態系を有していたことが明かされます。開発が進み野生動物が激減してからはウマ・ウシ・ブタなどの家畜が都市を支配し、糞尿の悪臭で人々を困らせつつも人間の生活を支えていました。しかし衛生観念の高まりとともに家畜が追放され、緑地が増えるにつれて、クリーンになった都市に野生動物が再び姿を現すようになりました。人のために創られ発展した都市環境は、いまや人だけではなく野生動物にとっても有用なすみかとなったのです。
野生動物が戻ってきた都市では過剰な個体数や人に危害を加える個体が問題となり、しばしば反対派と擁護派が激しく対立しました。著者は、そのどちらか一方に肩入れするのではなく、歴史に学び、科学的事実に基づいた対策を実施する重要性を説きます。危険性の低い動物を過剰に恐れて殺したり、生態系にダメージを与えている動物--たとえばネコ--をかわいいからと言ってむやみに保護したりすることは、人にとっても動物にとっても良くありません。野生動物による被害に遭わないために人間側がすべき対策もたくさんあります。
21世紀の都市の野生動物を理解し、都市とその周辺を人間と野生動物がともに繁栄していけるような場所にするためには何が必要なのか。コロナ禍やクマ出没で都市を利用する野生動物たちへの関心が高まっている今、駆除か保護かの二元論ではない共生への道を提案します。