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浴衣

最後に浴衣ではしゃいだのは10に満たない頃。人が巣をほじくり返された蟻のように湧いて出てくる花火大会を毎年楽しみにしていた。陽が斜めになると家族で堤防に向かい、陣を敷くことが恒例だった。例年以上の濃い硝煙に浮かぶ屋台。祭りの空気に充てられたその日、自分は500円玉を1枚隠し持っていた。トイレに行くと言って人混みに紛れ、日本屈指の花火を横目にチョコバナナを2本平らげた。煙が晴れ、熱りが冷めた家路で父親と鉢合わせ、これが家族で行く最後の花火大会となった。2人で食べたパイナップルバーが最も甘く感じた。

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