ホストクラブのJ君
ドアを開けたら、そこは光が絡み合う、まばゆい異界だった。
何年前だったか、ノーベル賞のTV報道で、スーパーカミオカンデなる施設を見たことがあるが、あんな感じのきらめきっぷりだ。
店の奥のピンクに輝くシャンパンタワーの前には、
ステージ風の丸いエリアがあり、そこに15人くらいの男子が並んでいた。
髪が金、銀、赤色でスーツ姿の男子達。ニッコリ笑って、
いらっっしゃいませ!
○※△〜★
(何を言ってるか不明)
と叫んで歓迎してくれた。
私は30年来の友人ミキとともに、初めてのホストクラブの、この歓迎ぶりに、ただただ会釈しながら目を丸くするしか無かった。
会釈ってあたりがおばちゃんぽくて既に恥ずかしいが、さらに恥ずかしい思いは続く。
シャンパンを手に乾杯をしたのは24歳の王子様風男子のジュン君。
隣にはホスト歴5日目のミカド君が。
栗原類君みたいな異国風な男の子で、ついおばちゃん見とれちゃうわ。
どうって事ない会話を交わしながら、男の子達の顔をついジロジロ見てしまう。
20代のかっこいいコと接するなんて、まず私の最近の日常ではあり得ない。
「出身はどこですか?」
「こういうお店は初めて?」
「お酒、よく飲むんですか?」
「名前おしえてください!」
矢継ぎ早な質問に答えるのが精一杯だ…。
九州よ。初めてよ。毎日やってるよ。麻美子。
一問一答式。受験勉強の時に活用した参考書みたいだわ。
赤いシートをかぶせて答えが見えないやつね。
どうでもいい回顧をしながら、またもかっこいいコ達に見とれていた。
ホスト達は入れ代わり立ち代わりに会話をしに来る。
その度に乾杯。
かっこいいコに見とれた後に、タイミングよく「お笑い系」なコが来てくれ、我にかえった。
「ボク、コトブキ・ツカサって言います」
渡された名刺には「寿 司」とある。スシ!なるほどこれって「つかみはok」な感じですね。
名前以上に面白い事は話してくれなかったけど、
寿司屋で言えば大トロの後に食べるガリみたいな良いコでおばちゃん なごんだわ。
と失礼な感想を頭の中で述べながら時間は過ぎて行く。
なんだかんだ、まるで合コンみたいな会話と美味しいお酒で、すっかり酔っ払い、帰宅ムードに。
そして、このあたりから記憶は曖昧に…。
「あの、そろそろ…」
と、ホストクラブ内の配膳係っぽい男性に言うと、支払い用の紙とトレイをくれた。
さっとお金をトレイに置いた頃に
最初に声をかけてくれたジュン君がやって来た。
「麻美子さん、もう帰るの?ボク見送ります」
ありがとう、と言いながらエレベーター前へ。
ミキは別のコと話し込んでいる。
なかなか来ないエレベーターの前で、ジュン君が上着を着せてくれ、
その流れでまさかの後ろからソフトにギュッとされた。
おばちゃんピンチ。
「なにすると〜」
と九州弁丸出しにする位びっくりした。
恥ずかしいあまりに黙りこむと、まさかまさかの大売出しで、
チュッと頬にキスをするではないか。
作り物っぽい目元で笑顔を作ったジュン君が
ささやくように聞いてきた。
「何するとって。出身どこでしたっけ…」
「こういうキスは初めて?」
「でも、旦那さんとはよくあるでしょ?」
「名前、呼び捨てしていい?」
私は、
九州よ。初めてよ。毎日やってるよ。麻美子。
とだけ答えて、エレベーターに逃げ込んだ。。。
4つの同じセリフで回答をしたのが可笑しくて少し笑った。
外に出て、歌舞伎町の埃とゴミのにおいのする風に吹かれながら、
ミキを置いて来た事に気付いた。
ミキが降りてきたら言おう。
「次、いつにする!?」
〜
こうしてホストは「いっちょ上がり」って言ってるのかもね。
おわり