心のまま…3
「それで?したの?しなかったの?」
理穂は、その小さな目を見開いて聞いてきた。
「ないない、ないない」
私は両手をブンブン振って否定した。
理穂の目は、またいつもの小さな目になる。その目はいつ見ても「彫刻刀でスッと傷をつけたかのような」細くて小さな目。
彫刻刀の種類は、刃を正面から見たらVのやつだ、、、
と、どうでもいいことを考えながら、コーヒーカップについた口紅を親指でぬぐった。
理穂はアイスカフェラテをストローでかき混ぜながら言った。
「でもさ、次があればするよね」
「あーーー…」
と、私は曖昧に答えながら昨夜を思い返す。
和馬と、ホテル最上階のラウンジで
お酒を飲みながら、お互いの20年間の事を話した。
何時間、話しただろう。
医師になった和馬は、ここ最近はアフリカのとある町で、医療ボランティアをしていた。
国連機関で出動待ちをしていた時は、自分が敗戦国の人間だからと差別があった、、、
などなど、現場の話は興味深く、大好きな和馬の顔を見ながら気分が高揚した。
和馬が話をする間、少し横にズレてる前歯の端の歯や、頬のホクロを眺めていた。
昔、そうする事が私は好きだった事を思い出す。
そして夜中12:00を過ぎた頃に帰ったのだけど、
帰りのエレベーターの中でも、気持ちを確かめるように抱きしめあった。
それだけだ。次の約束もしなかったし、連絡先も交換しなかった。
「いや〜、私は、男はもうつまみ食いでいいわ!」
と、理穂がまた目を丸くして言うから笑った。
シングルマザーの彼女の本音だろう。
その翌日、同窓会の主催者から集合写真が届いた。
同じ頃、主催者のマキから電話が来て、意外な事実を知った。
和馬は同窓会に来なかったと言うのだ。
つづく