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「建築学概論」を受講して

各論Ⅰ 「初恋」

 遅ればせながら、2012年の韓国映画「建築学概論」をネット配信で観た。
さすがに「恋愛映画としては韓国史上1位の興行記録」というだけあって、心に染み入るものがあった。
 ちょうど最近、在宅の時間が増え、一人で自身の人生を振り返り、様々な出来事に思いを馳せる機会も多いので、その点でもタイムリーな鑑賞だった。

 ネット上のレビューを読み漁ると「同じような体験をした」「他人事とは思えない」という、主に男性からの感想を多く読んだ。

 この映画の公開当時のキャッチコピーは、

 「みんな誰かの初恋だったー。」

とのこと。しかし、これには異論を挟まざるをえない。

 自身を振り返ってみても、当方の初恋は間違いなく存在し、相手の方のこともよく覚えているのだが、こちらが誰かの初恋の対象だったことがあるかは定かではない。
 明確に女性から好意を告げられたことがあったのは高校1年の時だが、私が彼女にとっての初恋の相手だったかはわからない。
 誰かを好きになるという能動的な思いは、それこそほぼみんなが経験したことであると思われるが、初恋相手になるという受動的な経験は、みんなができることではないのだ

 韓国では殊の外「初恋」が重要視されるようで、大半の日本人には大げさに感じるのではないかとも思う。
 それはともかくとして、私が映画の主人公のスンミンと同じ年頃だった時の話(初恋ではない)を少ししたい。

各論Ⅱ 「ナプトゥク」

 大学受験の浪人生の時、私には社会人だった彼女がいて、いよいよ受験勉強が佳境に入るので、大晦日に二人で話し合って、入試が終わるまで我慢して会わないことにした。
 しかし、若くて、出会いの多い社会人の彼女にとって、平日の夜や休みの日に彼氏に会えない日々は辛いものだったようで、いつの間にか違う人を好きになっていた(それでも私の受験が終わるまでは別れを切り出さなかったのは、彼女なりの思いやりだったのかもしれない)。

 映画の中のナプトゥクを見て、酔って泣いた私を慰めてくれた高校時代からの親友を真っ先に思い出した

 その彼は、2年前、五十代半ばに癌で亡くなってしまった。

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各論Ⅲ 「贈り物」

 月日は流れて、浪人生だった私も無事大学生になり、卒業し、社会人となって暫く経った後に出会った恋に、身をやつしてしまった。
 遠距離、家族環境等の障害が多いほど恋は燃えると言われているが、まさにそのとおりで、私にとっては一生忘れられない出来事となった。

 結局は数多の障害に打ち勝つことができずにその恋は成就しなかったのだが、この12年後に私は仕事で彼女の住む街を訪ねる機会があり、伝手を頼って入手した彼女の携帯番号に電話を掛け、久しぶりに会おうという話になった。
 電話では簡単にお互いの近況報告をし、彼女はその後結婚して、今は小さな子供がいるという。

 スンミンか、ソヨンの方か、あるいは双方なのか、映画の中の彼ら同様に、私にはずっと昇華しきれない思いが心の奥底に張り付いていたようで、12年間の後半に付き合った違う女性との恋愛が終わりを告げた時に、この彼女との恋は、直前の一つ前という位置に移動して、“過去の恋愛”という一括りの出来事にまとめることができた。
 やっと純粋に当時を懐かしむことができる、と考えた上での12年後の行動だった。

 いよいよ明日、という日の夜に彼女から電話があり、「やっぱり会わない方がいいと思う」と考え直したという。その考えに至った経緯については、私は深くは追及しなかった。

 付き合っていた当時にもらった、彼女が子どもの頃に書いたというほのぼのとした内容の自作の絵本を、私は大切に持っていた。
 しかし、もう彼女の子どもに見せてあげるべき時期が来たのではないかと思い、会えたらその時に渡そうと考えていたので、それを電話で聞いていた住所に宅配便で送った。

 後日、それを受け取ったという手紙には、会わない方がいいと考え直した理由だと思われる短い一文が書かれていた。

思い出は思い出のままで色褪せていくからこそ、美しいのだと思います。

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各論Ⅳ 「人生の宿題?」

 結果として、半世紀超の人生において、私は「この人となら共に生きていきたい」と “お互い”“同じタイミング” で思える相手には出会えなかった。

 映画を観終わった後の感想の第一声は、「この映画の主人公や、若き日の自分が感じたあのような気持ちになれる時は、この先の自身の人生にはもう訪れないんだな」という寂しいものではあったが、振り返ってみて悲しい思い出ばかりだったとしても、思い出せる出来事が何もない人生よりは色づいているのだと信じている。

 人生は過ぎてみないとわからないことが多く、また、過ぎてみたからこそ、他人のエピソードや創作であっても共感を覚えたり、郷愁を感じることができる

 一人になって余命いくばくもない片親と同居するソヨンと酷似した状況になった今の私も、然るべき時が来たら、実家を整理して、フォールディングウィンドウで全開になる窓のある家を、どこかの海辺にでも建てる。

 そして、そこに盆と正月には友人を招くことを人生の宿題(by ジョンヒ)にしたい。

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各論Ⅴ 「償いの日々」

 OSTの歌詞も曲調も映画にとてもマッチしていて、劇中の使われ方もよかったと思う。

君の心の中に 入ることができたら
子供だった僕の姿は どんな意味があるんだろう

展覧会「記憶の習作」より

 
そして、なんとなくだが、私の大好きな曲、「償いの日々」(財津和夫&原みどり)が、この映画に似合う気がした。

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