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喫茶店で。

現在の職場のすぐ近くに喫茶店がある事をつい先日知った。大通りに面し、レトロというより地域で風化した喫茶店。朝7時から空いており、その時間からオープンしている喫茶店は今時珍しい。

ちょっと読書でもしようと「弥勒 篠田節子」とスマホ(あらかじめいくつかの無料文庫データをダウンロード)を持ち、邪魔になる前情報もなく入店した。

朝8時頃に喫茶店に行ける身分の老人達はカウンターとテーブル席を跨いで会話をしている。
窓際はテーブル席、通路を挟んでカウンター、L字になった店内は馴染みある風合いだった。

『どこでも大丈夫ですか?』

『どうぞ』

腰を低く右手で縦に割りながら頭を鶏のように上下する仕草をしながら、老人達の会話を両断し、店内を一番落ち着いて見渡せそうな奥の4人がけテーブル席を目指した。

おしぼりを優しく置く手にアイスコーヒーを注文し、そして読書をはじめた。

が、老人達の距離感に似合わない声量の会話が耳の奥をほじくってきた。
彼らの教養と経験の集大成のよう語彙を駆使し、地域の愚痴文句をご丁寧に差し出し合っていた。
喉の調子が良くなく、時々口の中で収まるように咳払いをすると、少し静寂するのが面白かった。時には『あっ』と言いながら帰る老人もいた。
そして何度目かの咳払いの後、誰もいなくなったと思いきや、人生に耳など必要なくなったと言わんばかりの老人が1人新聞を読んでいた。その気配のなさに驚き、そして静かに笑ってしまった。

結局、読んだものは『美男子と煙草 太宰治』だった。

短編で読みやすく、最後の締め文句が良かった。

写真の展示がある店内をゆっくり見回していると、マスターが『奥にもたくさんありますので開けましょうか』と聞いてくれた。

老人の談話、落ち着いた読書、見応えのある展示群、そしてコーヒーで400円。なかなか良い時間を過ごすことが出来、一日のはじめを飾ることができた。

45歳の抱負の「勤勉」。ささやかに寄り添えたのではないだろうか。

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