違法残業の監視強化に労基監督官OBを活用。成果を期待したい。
法律は、制定されても罰則規定があっても、「見つからない」と人々が思えば守られません。そして、法律は守られなければ意味がありません。つまり、法が意味を持つためには、「違反すれば見つかって罰せられるかも知れない」と人々が思うことが大切なのです。そのためには取締官を増やす事が必要でしょう。
労働力不足の中で、予算も限られている中で、OBを活用するというのは素晴らしいことです。雇う側にとってもノウハウを持ったベテランを安く雇えますし、雇われる側にとっても自分のノウハウを活かした仕事で老後も活躍できるのは素晴らしいことです。個々人の職人技が活かせる職場なので、「老害」も少ないでしょう。
その事自体は大いに歓迎するとして、関連して感じた事を2点、記しておきます。
(1)行政指導も刑事罰も悪くありませんが、本件では違反者名の公表が非常に重要です。各社が労働力不足に悩んでいる中、「A社は労基法違反である」と公表されれば、採用活動に大きな悪影響が出ますから、各社とも公表されないように労基法を守ろうとするでしょう。
社員自身も、他社を知らない人が「我が社が労基法に違反しているとは知らなかった」「他社も同様だと思っていたが、我が社だけ公表されたという事は、他社は我が社よりマシなのか」といった事に気づく契機となるかも知れません。それで転職を考える社員が増えるとすれば、これも経営者にとっては避けたい事態でしょう。
(2)取り締まる側が法を守る事が最重要
厚生労働省は、労働基準法の適用を受けないので、労働基準法に違反する事はありませんが、労働基準法の要件は守るべきでしょう。自分が出来ていない事を他人に強制して、違反者を取り締まるというのでは、人々は納得しないでしょう。
摘発された人が「たしかに悪かった。ゴメンなさい」と思うのか、「お前に捕まりたくはなかった」と思うのかでは、再犯率も変わってくるでしょう。
霞ヶ関には霞ヶ関の事情があるのでしょうが、それを言い始めれば電通には電通の事情があったのかも知れません。そう考えると取り締まりの根拠が「悪法も法なり」になってしまいかねません。それは避けたいでしょう。
百歩譲って霞ヶ関の官僚のことは忘れても、取り締まる労働基準監督官が残業続きで労働基準法の基準を満たしていない、といった冗談のような話だけは、是非とも避けて頂きたいものです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25462770Z00C18A1CR8000/