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逃した魚は兎にも角にも大きい
私には初回や限定という言葉にめっぽう弱かった時期がある。
特に社会人になって働き出してからの1〜2年ほどは、自分で稼いだ収入の大半をCD購入に充てていた。
それらは通常盤ではなく、「初回限定盤」や「完全生産限定盤」という冠の付いた入手困難な旧譜ばかりである。Amazon等の通販サイトを中心に、日々PCと睨めっこしながらマウスを片手に探し回っていた。
ただプレミア価格という、定価よりも倍以上の値が付いた物について手を出すことはほとんどない。それに目を当てることなく、定価あるいは若干値段が下がっている新品を見つけては、ポチポチと手続きを済ませていく。
中でも人気アーティストのレアCDと謳われた物を、画面上で注文完了と目にした際の喜びは、たった一枚のアルバムでも非常に大きいものだった。
だがそれも時として、思いもよらぬ出来事に直面することがあったのである。
実家のあるマンションはセキュリティに関して少々難ありの所がある。大体の優良物件に付いていそうなオートロックや宅配ボックスなどは、まず完備されていない。
防犯カメラにおいてはエレベーターしか設置されていない。余談だが、私の記憶が正しければ、そこのカメラは過去に2、3回ほど誰かの手によって壊されていたことがある。
他にセキュリティが整っている箇所があるとすれば、ダイヤル錠が全室分装備されている集合ポストぐらいだろう。ちなみに私が一人暮らしを始めようと準備している時期まで、別途で個々に南京錠を付ける仕様のものだった。
しかし我が家にはそういったものを一切付けていなかった。そのため家に宛てられた投函物が、心無い第三者の手に行き渡ってもおかしくない状態であった。
そして何が起こったのかというと…盗難が起きたのである。
盗まれてしまった当日、やっとの事で手に入れた一枚のレアCDがようやく届くととわくわくしながら、仕事帰りにいざポストを覗いてみると何も入っていない。
未だにポストの中に投函されていないのはおかしいと思いながら、家に戻って親に聞いてみるも「知らない」とのこと。さらに怪しくなってサイトを開き、配達状況を確認してみたところ「配達完了」と表示とされていたのである。
そこでようやく誰かに盗まれたと確信するも、時既に遅しだった。
警察に被害届を出そうにも、被害が発生した場所である集合ポストには防犯カメラが一台も設置されていない。
相談をもちかけようにも、錠前を取り付けてないこちらにも落ち度があることから、いずれ一蹴されてしまうのが目に見えていた。
盗難に遭ったことに対するショックを抱えたまま、一旦画面上でカスタマーサービスを呼び出し、「配達完了」となっている商品が届いていない旨の問い合わせをかけてみた。
盗まれた代物はもちろん「限定」とかこつけていることもあって、再送するための代替品など出店側で用意されてあるはずもない。結局その場は後日返金という形で終息したのであった。
あの頃を思い起こせば逃がした魚は大きい。しかも盗人の手に渡ってしまったと考えただけでも非常に腹立たしい。
たかが一枚のCDだとはいえ、あの日起こった出来事を今日でも鮮明に思い出せるのは、盗られてしまった事実に直面しては様々な感情が一瞬にして入り混じったからだろう。
たぶんこの先も、その犯人とどこかで出会うことは一生ないかもしれない。だが覚えておきなさい。貴方を絶対に許す気は全くないし、忘れてやるつもりもさらさらないのだから。
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