見出し画像

いつかのクリスマスまで | ショートショート

「もうすぐクリスマスだね」


気づけば年の瀬が迫ってきている中、心を震わせる一大イベントが近づいてきていた。


街は、この季節にふさわしい色とりどりのイルミネーションに包まれている。


年に一度きりの聖夜が訪れるのを、誰よりも心待ちにしているかのように見えた。


そんな中で、僕は彼女と付き合ってから数ヶ月が経った。


はじめて一緒に過ごす”特別な日”を目前に、僕はどこか緊張感を隠せないでいた。


『何が欲しい?』

『何が食べたい?』

『何処に行きたい?』


今の僕の頭の中には、昔親から投げられた質問しか考えつくものがなかった。


彼女を喜ばせたい。彼女の素敵な笑顔を見たい。


それだけの一心なのに、彼女に伝えるための肝心な言葉が、口より先が真っ白なままだった。


そして僕は、精一杯伝えられる言葉で問いかけてみた。


「クリスマスらしいことができたらいい」


当たり前にそう返す彼女は続けて、不器用なままの僕にこう告げた。


「君がそばにいてくれるだけで、充分かな…」





(410文字)

いいなと思ったら応援しよう!

タダノツカサ
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!