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5円玉探しの旅 | エッセイ
その日、どうしても5円玉を用意しなければならなかった。
初詣にて、良いご縁に恵まれますようにと祈願するための、その一枚が必要だからだ。だが財布を含む手持ちには、これだまた運やらタイミングなどが悪いのか、なぜか5円玉だけが入っていないのである。
他には1円玉をはじめ、10円や100円玉などの硬貨が、ここぞと言わんばかりに備わっている。けれども、今回の主役…もとい最も必要としているのは彼らではなく、劣るとも勝らない金色に輝く5円玉だ。
よりにもよってその主演とやらが、自分の財布というステージに登壇していないとは。新年早々運がないと落胆してしまうところだが、まだ始まっていないのにここで嘆くには早すぎる。
自分の手中に無ければ、自らの手でなんとかその1枚を探し出せばいい。目的地に到着するまでの間、5円玉探しの旅を一人勝手に決行するのであった。
そうして目的地周辺に降り立つと、まず近くにあるコンビニに向かい、お釣りで必ず5円玉が出そうな商品を探す。それも絶対に無駄にならないものを。お茶やコーヒーなどの飲料物であれば、自ずとも容易に見つかることだろう。
そう意気込んでいたのだが、思いのほかお目当てのものはなかなか見つからず、捜索は難航してしまう一方だった。税込と記された値札を一点ずつ隈無く探し当ててみるものの、どれも5円玉を除く硬貨しか出てこない物ばかりだ。
このままではいけない。時間をかなり浪費してしまう他、下手すれば周囲から変な目で見られてしまう。いや、既に見られているのかもしれないが、そう気にしている場合ではない。なんとか見つけ出さないと…!
その一心で自分の視界に入ってきたのは、お釣りが少なくとも6円出るであろう1本のボトルコーヒーだった。税込と表示されている額面には、最低でも5円のお釣りが出る数値が記されている。
きた!これだ!と歓喜するも、心の声が周りにダダ漏れになってしまわぬようなんとか抑え込む。そしてすぐさま目星を付けたボトルコーヒーを手に取り、レジに並ぶ。
これでようやく5円玉が手に入る。あとはそれを持って初詣へと向かい、祈願するだけだ。そう思えたのも束の間、この後まさかの事態に直面してしまう。
なんと、その手に取ったボトルコーヒーのバーコードをスキャンした途端、わずかばかりの値引きが入ってしまったのだ。思わず「え」と声を発してしまった自分の視界に映る合計の末尾には、まったく予期していなかった0の値を示している。
いったい何をどうして起こってしまったのか。「お支払い方法を選択してください」とアナウンスするレジスターを前に、皆目見当もつかない状態だった。そもそも、値引きセールを謳うポップやシールなどの掲示はなかったはずであった。
しかしながら、この場で「商品を買うのをやめます」と店員さんに伝えるのは、流石に気まずい。それでもって、自分の後ろにはすでに長蛇の列が連なっている。もはや進むにも戻るにも詰みの状態だ。
ここで5円玉のお釣りがもらえないからと云って取り消すわけにはいかず、仕方なくお金を支払ってボトルコーヒーを手に取り、そのコンビニを後にしたのだった。
結局その後、コンビニを2、3軒ほど探し回り、のど飴を買ってようやく5円玉を確保することができた。その足で初詣に向かい祈願を済ませたものの、気づけば目的地周辺に到着してから確保するまで、延べ30分近く時間をかけてしまっていた。
このような事態に直面して疲弊するのなら、予め用意しておくべきだったと自省するのであった。だがこれはこれでもしかしたら、ある種の御縁に巡り合うかもしれないし、はたまた望んでいない縁に鉢合わせになるかもしれない。
きっと今年は、今まで以上にアテのない一年になりそうだ。5円玉を探す奇行から始まり、行く先々でゴエンに恵まれないシチュエーションに出くわしてしまった以上、ただならぬ何かがあるのだと思うのであった。
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