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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座24デジタライゼーション(①SoR)の実践-使われずに放置されている業務データこそ宝-

SoR(System of Record)は記録のためのシステムであり、会計や人事労務、受発注管理、生産管理といった従来からある業務システムがこれにあたります。業務上、正確なデータ入力や処理が求められるため、非常に有用なデータが蓄積されていることが推測されますが、部門ごとに部分最適化されたシステム利用にとどまっていることから、活用できていないデータが宝の山となっているかもしれません。

 SoRはSoE(System of Engagement)関係のためのシステムやSoI(System of Insight)分析のためのシステムと比較して、DXの主役とはあまり考えられていないのですが、実は、他部署や顧客、取引先にとって非常に有用なデータが蓄積されている可能性があります。

 たとえば、会計システムでは日々の仕訳データは損益計算書や貸借対照表などの決算書類を作成するために利用されることはあっても、営業分析やコスト分析といった管理会計目的で利用できている企業は少ないのではないでしょうか。受注データや出荷データも時系列分析すれば、需要予測ができるかもしれません。

ビッグデータやAIなどデジタル技術が高度化する中で、過去からの仕訳データ全てに対するデータ分析は難しいことではなくなりました。財務分析で行われる比率分析では、資産や負債の当期と前期の残高を足して二で割ることで平均とするやり方が行われていますが、これでは仕訳データのバラツキが考慮されていません。仕訳データをそのままデータ分析することができれば、日々変化するビジネストレンドを発見することができ、顧客行動などの経営環境の変化を先取りできるかもしれません。

 SoRである業務システムの多くは性能の低かった昔のコンピュータを利用して始まっているため、収集データそのものを利用せずに集約することでコンピュータの負荷を軽減してきた経緯があります。ERPで有名なSAPでも事情は変わらず、収集したデータを活用しきれていませんでした。SAPの最新版であるSAP HANA (High-performance ANalytic Appliance) では、データをハードディスクではなくメモリー保存することによって、超高速に大量データを分析することでできるようになっています。

 従来においても、業務系システムのデータをパソコンサーバ上のデータベースに移して、情報系システムとしてデータ分析に利用することはよく行われていました。今、DXで求められている多くのことは、十年以上前のコンピュータでもやれていたことが少なくないのです。
 
 DXの必要性が叫ばれている今もまた、単なるIT推進としかとらえていない一部の人達がDXを失敗させようとしています。日本のデジタル化が昔から今にいたるまで失敗し続けているのは、部分最適から抜け出せないことにあります。「ITに強い社員やベンダーに任せておけばよい。」、「自部署、自分の担当業務さえうまくいけばいい。」といった後ろ向きな考え方がはびこったままでDXを推進することはできません。

 DXなどと大げさなことを言わなくても今の経営課題や最新技術を考慮して、SoRである業務システムの意義や目的を見直して、あるべき姿について再考すれば、おのずから顧客志向、全体最適志向になって、結果的にDXにたどり着くはずなのです。
 
 今まさにDXに取り組んでいる、あるいは取り組もうとして、全く新しいことを考えようとして何をすればわからないというのであれば、今までにあるものから見直してみればどうでしょうか。業務システムやExcelファイル、ホームページ、ファイルサーバ、電子メールなど既にデジタル化されていることはかなりあるはずです。ただ単に、また新しいツールを導入するだけではまた消化不良のデジタルデータを増やすだけです。

 過去のデジタルデータを整理整とんすることによって、会社を強くできる宝が見つかるかもしれません。

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