技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座16 デジタイゼーション(デジタル化)の実践-Googleフォームだけでもここまでできる-
デジタイゼーションの必要性はあまりに当たり前のことすぎて、なかなかその必要性を感じてもらえなかったりします。「業務システムも電子メールもやっている。」「資料はExcelやGoogleスプレッドシートで作成している。」といった返答が今にも聞こえてきそうです。
簡単なことほど奥が深いように、デジタイゼーションもよくよく考えて取り組まないと、メリットよりもデメリットの方が大きくなったりします。会計システムに入力するデータは必要最低限であり、売上登録にしても金額が大きい小さいはわかっても、どれほどうれしい売上か、反対にあまり好ましくない売上かについては何も教えてくれないでしょう。電子メールにいたっては、肝心なことが書かれていなかったり、読み返したいときに見つからないということが日常茶飯事です。Excelなどのオフィス文書も、属人的につくられた資料は本人しか使いこなせず、担当者が変わるたびに新しい文書が作成されていないでしょうか。
これでは、きちんと分類ラベルを付けられて、フォルダーやキャビネットに整理されていた昔の紙資料の方がよほど使い勝手がありました。デジタル化することでかえって情報活用の足かせになってしまうようでは本末転倒なのです。
中途半端にデジタル化が進んでしまった現代こそ、きちんとしたデジタイゼーションを推進することが難しくなっています。誰もが困っておらず、好き勝手に仕事をしている職場では特に大改革が必要です。デジタル化の大きなメリットは「共有」できることです。部署の壁を越え、さらには企業の壁を超えていけば、全体最適としてのゴールであるデジタルトランスフォーメーションも目の間に見えてきます。データの検索や更新は、時間の壁を越える「共有」です。人は自分で作成した情報ですら忘れてしまいます。GmailやGoogleドライブの検索機能に助けられた人も少なくないはずです。
こうしたデジタイゼーションが持つ本来の意義は、属人的、部分最適な現状をよしとする人にはなかなか理解してもらえません。特に、Kintone(キントーン)のようなローコードツールを入れようとしても、Excelなどがあるのにわざわざ入れなくてもいいだろうとなってしまいがちです。(MicrosoftはExcelと連携できるローコードツールとしてPowerAppsという製品を出していますが・・・)
そこで、私がいつもDX推進に苦戦している担当者にお勧めしているのが、無料ツールを使って、デジタル化を体験してもらい、そのメリットを感じてもらうことです。ここでは、Googleフォームという無料のアンケートツールを使って、業務日報やチェックシートを作るという方法をご紹介したいと思います。
この画面は私が情報セキュリティに取り組んでいる企業のために、作成したデイリーのチェックシートです。Googleフォームは元々アンケートツールとして開発されているため、登録データは瞬時に集計され、グラフ表示してくれます。GoogleスプレットシートやExcelにもデータ出力できるため、簡単なデータ入力、保存、更新、検索、集計といった簡単なデジタル化用途であれば、わざわざローコードツールを使う必要すらありません。ほとんどの人がスマホを持っていることを考えれば、Googleフォームを使ったデジタイゼーションはもっと広がってもよいのではないかと思っています。
最後に、情報システムなどですでにデジタル化されている場合に見直すべき点について挙げておきたいと思います。
・該当するコードや選択枝がないため、不適切な選択がされることがある
アンケートでもそうですが、社内システムでもよく起きる問題です。過去に私が出会ったレアケースでは、頻繁に起こる事象に対するコードがなかったため、選択することのないコードを代わりに登録していた事業所がありました。当然、全社集計の結果はおかしくなっていました。
・対象作業と連動したデータ入力ができないことがある
入出荷などで出荷業務をしている途中でイレギュラー入荷があったり、作業着手してから部品や工具の準備ミスが見つかるなど、対象作業と連動したデータ入力ができずに、事実と異なるデータが登録されてしまうことがあります。
・大事なことを入力するところがないため入力しない/手書きで書いておく
大事なことを入力したくても入力欄がないから入力しないということが起きていないでしょうか。真面目な社員であれば印刷帳票に手書きでメモ書きや付箋を貼るでしょう。残念ながら、その大事な情報はメモ書きや付箋を見ることのない人には共有されないのです。
・明確な利用目的がないままデータ入力が強いられている
管理部門に多いのが、問題を見つけることが自分たちの役割だとして現場に過度なデータ入力を強いるケースがあります。これでは適切なデータが得られるは得られません。
・共有することを意識していないため、後で検索しても見つからない
用語が標準化されておらず、自分勝手に書かれた情報は組織として共有、活用することができません。品質記録や営業日報などの社内情報がデジタル化されても役に立たないのは、製造や品質、営業など部門を超えたデータ利用、過去から未来へのデータ利用という「共有」意識がないからです。
デジタイゼーションにおいては、いつでもどこでもすぐにデータ入力や参照ができるスマホやタブレットは非常に強力なツールになります。次回は、KintoneやGoogleAppSheet、MicrosoftPowerAppsなどのローコードツールを使った、より高度なデジタル化の方法についてご紹介したいと思います。