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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座番外編 DXについて近頃思うこと

 本年最後の連載として、今DXについて思うことを書いてみたいと思います。私はITの専門家として長くこの国の情報化をみてきました。古くはSISから始まってIT革命やサプライチェーン、データサイエンス、ビジネスインテリジェンス、IoT、AIなど次々と新しいキーワードが登場し、IT業界は売上を伸ばしてきました。
 
 しかし、そのたびに期待していたような結果が伴わず、ブームはしぼんでいきました。その理由はきわめて単純で、ITさえ導入すればうまくいくという安易な考え方にありました。ITさえ導入すれば成功できるわけがないことは、賢明な大人であれば自明の理だと思うのですが、どうもそう思わない人が少なからずおられるのだとその時痛感しました。
 
そして、今度のDXこそは、ようやく日本でも健全なIT化が実現する取り組みと信じて、DXの本質について発信してまいりました。ですがまた、DXという言葉もITで儲かればよいという好ましくない動きが大きくなってきているように感じています。このままでは昔と同じように、新しいキーワードを使い捨てするようなことになりかねません。
 
 DXはトランスフォーメーションすることを求めるものです。今すぐの収益を与えてくれるものではなく、将来の収益を実現するための企業価値を高めてくれるものです。今ある業務の改善のためでもなければ、今ある商品の販売力を高めてくれるものでもありません。
 
 別に今ある業務の改善や今ある商品の販売力を高めるためにIT活用することが悪いと言っているわけではありません。しかし、それではWeb3.0やAIといった最先端の情報技術が発展した未来社会において生き残れる企業へと変われるわけではないのです。
 
 DX化において必死にやらないといけないのは、未来の会社で働いている自分達や、その先に働いているまだ見ぬ新入社員の立場にたって、自分達が今やっている仕事をどう変えておくべきかについて考えることです。今やっている仕事をITの力で延命させることすら、罪かもしれないのです。
 
 私自身、「今」を生きる人間です。「未来」を生きろと言われても無理なことです。だけど、「今」を生きる人間だからこそ、今やっていることのよいこと、悪いことは痛いほどわかっています。
 
 パソコンやインターネットがこれほど利用されている今であっても、あちこちに無駄や理不尽なことがあることを私は知っています。「そんな堅いこと言うなよ。」と言われても変えるべきことは変えるべきです。私たちは現実の世界に生きなければならないとしても、理想を追い求めることをやめてはいけないのです。
 
 トヨタでは「ジドウカ」に「自動化」と「動」にニンベンの付いた「自働化」の2種類があるとされています。「自動化」は人の作業を機械に置き換えることを指し、「自働化」は人の働きを機械に置き換えることを指します。そして、自分の仕事の「自働化」に成功した社員はその仕事を失い、よりレベルの高い仕事へとまさにトランスフォーメーションしていくのです。
 
 私はトヨタの「自働化」の精神こそDXの本質であると思っています。何も考えなくても何をしなくても、どうせ人はAIやロボットに仕事を奪われていくでしょう。その方が仕事も早く安くて文句も言わないのですから。しかし、「自働化」はただ仕事を失っていくことを意味するのでありません。機械でできる仕事をどんどん機械でできるようにすると同時に、人でしかできない仕事、人がやるべき仕事を創りだしていくことも意味するのです。
 
 怠け者や失業者を増やするためにDXがあるわけではありません。機械がなんでもしてくれる未来において、子供は何を学ぶべきか、親や教師は何を教えるべきか、人は何をして所得を得て何をして生活すべきなのか、誰かが考えなければなりません。
 
 経営者の皆様、経営幹部の皆様、企業支援に携われる皆様、IT業界に実を置く皆様、「今」を生きている私たちが真剣に、デジタルトランスフォーメーション後の社会や仕事、生きがい働きがいについて考えていく必要があるのではないしょうか。
 
 IT導入補助金をどれほど乱発、利用しようとも、この国のIT化は成功しないのです。
 
 売上を伸ばせ、業績を上げろとだけ言っている場合ではない非常に重要な社会の分岐点に私たちは今立っています。人を変えましょう!価値観を変えましょう!生き方を変えましょう!
 
 2024年も予測のつかない大変な変化が待っている年になりそうです。皆様にとって意義ある年になることをお祈りし、私も気持ち新たに連載を続けていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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